光(照明)と頭痛~住環境の工夫による片頭痛予防~
- 監修:
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獨協医科大学病院 頭痛センター/医療安全推進センター 教授辰元 宗人 先生
2022年10月作成
近年の社会事情の変化により自宅で過ごす時間が増えた方も多いことと思います。その一方で、自宅での頭痛に悩まされる方も増えているようです。頭痛にはさまざまな原因がありますが、特に片頭痛は周囲の環境の影響を受けやすいため1)、住環境の工夫によって自宅で起きる頭痛を改善できる可能性があります。
片頭痛患者さんが不快に感じやすい光
頭痛に関連するさまざまな環境要因のなかでも「光」は片頭痛との関係が深いことが知られており、片頭痛患者さんの半数以上の方に、頭痛発作時に明るい光を不快に感じる「光過敏」の症状があるといわれています2)。また、片頭痛患者さん1,207人を対象とした調査では、38.1%の方が光により頭痛が引き起こされたとの報告もあります3)。
日常生活のなかで片頭痛に影響する可能性がある光の一例を以下にあげます。
- 屋外: 昼間の太陽光、夜間の自動車のヘッドライト/ブレーキランプ
- 屋内: 自宅、学校・職場、商業施設などの室内照明(特に化粧品売り場、家電量販店、コンビニエンスストアなどの白く明るい照明)
- その他: デジタルデバイスのモニター(PC、スマートフォンなど)
私たちの目に見える光は波長によってさまざまな色に見えるのですが、赤・緑・青の3色の光が混ざり合って色ができています。一般的に片頭痛患者さんは頭痛がない方よりも弱い光(低照度の光)を好む傾向があり4)、緑(550 nm)や赤(610 nm)の光よりも青い光(480 nm、ブルーライト)を不快に感じる方が多いです5)。また、ハロゲン電球(電球色)のまぶしさの感じ方には片頭痛患者さんと頭痛がない方でほとんど違いはありませんが、白色蛍光灯や白色LED(つぶつぶが見える点光源)に対しては、片頭痛患者さんの方がよりまぶしさを感じやすいことがわかっています6)。
光過敏、ブルーライトと片頭痛の関係については、
眼と頭痛
スマートフォンやパソコンと頭痛の関係
でもご紹介しています。
片頭痛患者さんが不快に感じやすい音・におい
片頭痛患者さんは、音やにおいに過敏になることも珍しくありません。音については、頭痛がない方よりも救急車やパトカーのサイレン、踏切のベル、車のクラクション、スズメや夕方のセミの鳴き声などに対して不快に感じることが多いようです7)。においについては、香水やたばこのにおいなどが頭痛の原因となることが知られています8)。
住環境の工夫による片頭痛予防
照明の工夫
日本では住宅建設時に白色で明るい天井照明が好んで設置されます。片頭痛で光を過敏に感じる方で、もし自宅の照明もそうなっていたら、電球色の照明への変更をおすすめします。調光・調色機能付きLED照明であれば、明るさを落としたり電球色に変更するだけでも効果があります。蛍光灯にも電球色のものがありますが、古くなったときに起こるちらつき※1は頭痛の原因となることがあるため、早めの交換を心がけましょう※2。
なお、LEDは本来直進性が強く、光過敏の方には刺激が強い光源です。LED照明を購入する際は、光源を拡散板で覆ってあり光がふわっと均一に照射される製品(中のLEDのつぶつぶが見えない製品)を選びましょう。
また、有機EL照明はLED照明よりも光過敏に対する負荷は少ないものの9)、LED照明よりも導入コストが高いのが難点です。
天井照明を交換できない場合などは、天井照明を使用せず壁にブラケットライトを取り付けたり、作業スペースの周囲だけをテーブルライトやデスクライトで照らす方法もあります。部屋全体ではなく、作業する場所や作業対象など必要な部分だけを明るくする方法は、タスク・アンビエント照明といわれ、省エネの観点からも注目されています10)。
- ※1 蛍光灯が高速で点滅するフリッカー現象がちらつきの原因です。フリッカー現象はLED照明でも起こるため同様の注意が必要です。
- ※2 環境負荷への配慮や、2030年までにすべての照明器具を高効率次世代照明(LEDまたは有機EL)に切り替えるという目標が2010年に閣議決定されたことを受けて、蛍光灯からLED照明への置き換えが進んでいます。
壁紙の工夫
自宅の壁紙が光を反射しやすい白色の壁紙や、ストライプなどコントラストの高い壁紙の場合は、クリーム色や緑色など刺激の少ない単色の壁紙に張り替えるとよいでしょう。また、消臭機能付きの壁紙も市販されていますので、におい過敏がある方は検討してみてもよいかもしれません。
デジタルデバイス使用上の注意
PCやスマートフォンなどのデジタルデバイスのモニターは、明るすぎず暗すぎない適切な輝度に設定しましょう。また、デジタルデバイスの長時間の使用は片頭痛だけではなく、緊張型頭痛やVDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)症候群の原因にもなるため、できるだけ長時間の利用を避けることが大切です。
眼と頭痛
スマートフォンやパソコンと頭痛の関係
もご覧ください。
おわりに
実際に本記事で取り上げた工夫を導入して、住人の片頭痛が改善した例があります11)。また、照明を電球色に変更した頭痛クリニック12)は患者さんからも好評を得ているとのことです。光過敏に配慮した空間は、頭痛がない方にとっても過ごしやすくリラックスできる空間になるはずですので、同居者がいる方もぜひ検討してみてください。
写真:社会医療法人 寿会 富永クリニック
- <参考>
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- 1) 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.104-106.
- 2) Kelman L, Tanis D : The relationship between migraine pain and other associated symptoms.Cephalalgia 2006; 26:548-553.
- 3) Kelman L : The triggers or precipitants of the acute migraine attack. Cephalalgia 2007; 27:394-402.
- 4) 鍵本明里,他:くつろぎに好ましい壁面色彩および照明光色に関する研究 ―片頭痛をもつ在室者を対象として―.同志社女子大学生活科学 2016; 49:42-45.
- 5) Tatsumoto M, et al : Light of Intrinsically Photosensitive Retinal Ganglion Cell (ipRGC) Causing Migraine Headache Exacerbation. Cephalalgia 2013; 33:suppl 2.
- 6) 辰元宗人:片頭痛と光波長,照明.照明学会誌 2015; 99:25-27.
- 7) Ishikawa T, et al : Identification of Everyday Sounds Perceived as Noise by Migraine Patients. Intern Med 2019; 58:1565-1572.
- 8) Saisu A, et al : Evaluation of olfaction in patients with migraine using an odour stick identification test. Cephalalgia 2011: 31:1023-1028.
- 9) 辰元宗人:片頭痛と光環境. 日本生理人類学会誌 2020; 25:41-45.
- 10) 環境省:あかり未来計画 いま、注目の新スタイル タスク・アンビエント照明(https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/akari/ta/)(2022年10月閲覧)
- 11) 辰元宗人:片頭痛の誘因としての光刺激,音刺激にどう対処するか~光の処方箋.Headache Clin Sci 2014; 5:26-27.
- 12) 社会医療法人 寿会 富永クリニック:片頭痛と光(照明)について(https://www.tominaga.or.jp/clinic/first/)(2022年10月閲覧)