こころと頭痛
- 監修:
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東邦大学医療センター大森病院 心療内科 教授端詰 勝敬 先生
2021年8月更新
仕事や勉強などで大きなストレスを感じているときに頭が痛くなることもあれば、反対にそのような大きなストレスから開放された途端に頭が痛くなることもあったりと、ストレスと頭痛の密接な関係を実感されている方も多いのではないでしょうか。そこで、本記事ではストレスを含むこころの状態と頭痛の関係について解説します。
ストレスが頭痛を引き起こす?
慢性頭痛でもっとも多い 緊張型頭痛 は、かつて「ストレス頭痛」とよばれていたこともあるほど、ストレスとの関係性が深い頭痛として知られています。また、二番目に多い 片頭痛 も、ストレスによって引き起こされたり悪化することがよく知られています。同じ「ストレスとの関係が深い頭痛」でも、緊張型頭痛と片頭痛では頭痛が起こるタイミングや頭痛発作のあらわれ方が異なります。(表)
頭痛がうつ病などこころの病気を引き起こす?
緊張型頭痛や片頭痛をもつ方は、うつ病や不安障害(パニック障害等)などのこころの病気を合併しやすいことがわかっています。片頭痛においてはデータもあり、片頭痛患者さんは頭痛のない方と比べて、うつ病やパニック障害になりやすいと言われています。1)
がんや慢性疾患など頭痛以外の疾患でも、病気に悩んでいる方は病気のない人に比べるとこころの病気にかかりやすくなることが知られていますが、その多くは病気のつらさに起因する気分の落ち込みが原因だと考えられます。一方で片頭痛の場合は、発作がひどい時期には気分の落ち込み(抑うつ状態)が見られないのに、片頭痛が軽快してくると抑うつ状態があらわれる方も多くいます。うつ病の原因の1つとして、脳内にある神経伝達物質「セロトニン」が、何らかの異常により減少し、情報がうまく伝わらなくなることがあると考えられています。片頭痛の発症にもセロトニンが関わりますので、片頭痛とうつ病には、頭痛のつらさによる気分の落ち込み以外に、セロトニンの代謝異常などの何らかの原因が他にも存在するのではないかと考えられています。
こころの病気も頭痛を引き起こす?
うつ病、不安症、パニック障害、身体症状症、妄想などのこころの病気や症状では、頭痛が引き起こされることがあります。こころの病気による頭痛は以下のような特徴をもつことが多く、こころの病気を治療することで頭痛は軽快していきます。
- 痛みの出かたなどの症状がはっきりとしない
- 背中の痛みなど、頭痛以外にもさまざまな症状があることが多い
- こころの病気が良くなったり悪くなったりすることに合わせて、頭痛の状態も良くなったり悪くなったりする
薬物乱用頭痛とこころの関係
薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)
とは、頭痛薬の使いすぎが原因で起きる頭痛です。薬物乱用頭痛には心理的な要因と行動的な要因が深く関わっているといわれています。特に片頭痛患者さんで薬物乱用頭痛になった方は、気分障害、不安障害などのこころの病気を伴うことが多いことがわかっています。2)また、これまでこころの病気にかかったことがない方でも、過去に体験した頭痛に対する不安や恐怖感が強い方では、頭痛を回避したいと思って薬を早めに飲んだり、必要以上に多くに飲んだりしてしまうことで薬物乱用頭痛になりやすい傾向があります。
なお、頭痛持ちの方のなかには、「たかが頭痛」と考えて病院を受診されていない方も多くいますが、自己判断で市販薬での対処を続けると薬物乱用頭痛になる可能性もありますので、頭痛が慢性化している方は、程度が軽くても一度医療機関を受診することをおすすめします。
こころが関係する頭痛の治療
ストレスによる頭痛のセルフケア
頭痛とストレスには深い関係があることをご紹介してきました。ストレスによる頭痛を防ぐには原因を回避することが最も確実な方法ですが、現実社会においては避けることができないストレス要因が数多く存在します。そのため、原因を回避しようとするのではなく、自分にあったストレス解消法を見つけるなど、ストレスと上手につきあっていく方法(ストレスマネジメント)を考えるのがよいでしょう。
ストレス解消法は、受動的なものと能動的なものに大きく分けることができます。ストレスの原因を考えないようにすることなどが受動的な解消法にあたり、寝る、人に相談する、愚痴る、好きな映画を見る、スポーツをする、習い事をするなどのように、自発的な行動でストレスの解消をめざすことが能動的な解消法にあたります。上手にストレスを解消していくポイントは、いつも同じ方法に頼るのではなく、ストレスマネジメントの引き出しを増やしていくことです。特に受動的な解消法ばかりの方は、少しずつでよいので能動的な解消法にもチャレンジしてみましょう。
認知行動療法について
近年、こころの問題との関係が深い片頭痛や緊張型頭痛などに対して、認知行動療法※という治療法が実施されることがあります。(※片頭痛や緊張型頭痛などの慢性頭痛の治療として、日本では保険適用外であり、実施している施設は限られます)
認知行動療法とは、「うつ病などのさまざまな心の病に対する有効性が医学研究で立証されている心理療法」3)のことであり、近年では慢性的な痛み(慢性疼痛・まんせいとうつう)の治療法としても注目が集まっています。
ここでいう「認知」とは、その人がもつ特徴的な物事の捉え方や考え方のことです。この認知がゆがんでしまうと「自分は痛みに対して無力であり、価値がない」と捉えるようになり(破局的思考、カタストロフィ)、それがさらに痛みを悪化させてしまいます。そのため、患者さんの「認知」と、患者さんが痛みに対してとる「行動」のいずれか(あるいは両方)に介入し、認知のゆがみを修正(認知再構成)することで痛みにアプローチしていくのが認知行動療法です。
「ストレスによる頭痛のセルフケア」で紹介しましたストレスマネジメントも、ストレスへの向き合い方(行動)を変えてみるという点で認知行動療法の1つだと考えることができます。
もう1つ例をあげます。例えば、「頭痛のせいで大事な会議を休んでしまった。自分はなんて不幸で駄目な人間なのだろう」と考えてしまう方がいたとします。認知行動療法ではこの方に対して、「他の考え方はありませんか?」「なぜ自分は駄目だと思ったのですか?」「あなた以外にも会議に参加しなかった人はいませんか?」のような質問を行うことで、患者さんの破局的思考を作っている根拠とは別の根拠に目を向けさせ、「休んだのには理由があり、1回欠席したことであなたの評価が大きく下がるものではない」「他の人も欠席しているじゃないか」のように、元の根拠とは別の根拠にもとづいた考え方ができるようになることをサポートします。
ストレスによる頭痛は何科を受診すればよい?
受診してみようと思ったとき、何科を受診すればよいのでしょうか?ストレスによって頭痛になったと思うと精神科を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、もしこれまでに頭痛で受診したことがない場合は、まずは内科や頭痛外来を受診して、身体そのものの異常(器質的原因)が隠れていないか診てもらうのがよいでしょう。
一方で、頭痛以外にもさまざまな症状を伴い、やる気がわかない、眠れない、食欲がわかない、気分が落ち込むなどの精神的な症状がある場合は、心療内科や精神科で診てもらうとよいでしょう。
心療内科と精神科と神経内科の違いを知っていますか?
心療内科と精神科と神経内科の違いについては、厚生労働省が提供している「みんなのメンタルヘルス総合サイト」4)というWebサイトが参考になりますので、このWebサイトを参考に解説します。
- 心療内科:内科系の診療科であり、ストレスなどの心理的な要因で身体の症状(胃潰瘍、気管支ぜんそくなど)があらわれる「心身症」を診療します。
- 精神科:うつ病、統合失調症、神経症性障害などのこころの病気を診療します。神経科、精神神経科と標榜している病院もあります。
- 神経内科:パーキンソン病や脳梗塞、手足の麻痺や震えなど、脳や脊髄、神経、筋肉の病気を診療します。精神的な病気を主に診ているわけではありません。最近では「脳神経内科」と標榜する施設が増えています。
「診療科の選び方」 では脳神経内科(神経内科)で診てもらえる症状を詳しく解説しています。
- <参考>
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- 1)慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会:慢性頭痛の診療ガイドライン2013, p.50-52,p.201-203,医学書院,2013.
- 2)端詰 勝敬:心療内科的アプローチが必要となる慢性頭痛,臨床神経 2012;52:866-868.
- 3)厚生労働省, e-ヘルスネット〈認知行動療法〉,(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-044.html)(2021年3月時点)
- 4)厚生労働省, みんなのメンタルヘルス総合サイト〈医療機関の選び方〉, (https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/medical_1.html)(2021年3月時点)