睡眠と頭痛
- 監修:
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獨協医科⼤学病院 脳神経内科 主任教授・診療部⻑/睡眠医療センター鈴木 圭輔 先生
2022年12月作成
日本人と睡眠障害
2019年の厚生労働省の調査結果(グラフ)1)から、多くの日本人が睡眠に関して何らかの問題を抱えていることがうかがえます。また昨今では、在宅勤務の普及に伴って、以前と比べて生活・睡眠リズムが不規則になったり、運動量が低下して寝付きが悪くなったりすることで睡眠の質が低下している方も増えているようです。
一方で、このような睡眠の質の低下は、頭痛を引き起こしたり悪化させたりする要因になることがあります。本記事では、睡眠と頭痛の関係性について解説します。
睡眠と健康
睡眠は健康に生きていくうえで必須のものです。睡眠の乱れが続くと、日中の眠気や頭痛だけにとどまらず、生活習慣病や心血管疾患2)などの病気が起こりやすくなるともいわれています。適切な睡眠時間には個人差がありますが、平均6〜8時間程度と考えられており、極端な短時間睡眠や長時間睡眠は体に悪い影響を与え、死亡率の増加との関連も指摘されています3)。
頭痛と睡眠障害
頭痛と睡眠障害の双方向性
頭痛と睡眠障害には双方向的な関係性があることが知られており、睡眠障害を改善すると頭痛が改善することもあれば、睡眠中の頭痛が睡眠障害を引き起こすこともあります。これは、脳の中の痛みを伝達する経路と、睡眠と覚醒を調節する脳内(脳幹や視床下部)にある経路の一部が重なっていることが理由の1つだと考えられています4) 。
また、片頭痛では睡眠の過不足が頭痛発作の誘因になったり5)、発作前の予兆としてあくびが出現したり、眠ることで症状が改善したりするなど、睡眠との関係性がよく知られています。
睡眠中に頭痛で目が覚める
睡眠中に頭痛で目が覚めてしまった場合、その頭痛は片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛のいずれかであることが多いです。特に群発頭痛は夜間や睡眠中に発作が起こりやすいことが知られています6)。非常に稀ですが睡眠中だけに頭痛が起きる睡眠時頭痛という病気もあります。また、次の項目で詳しく解説しますが、睡眠時無呼吸性頭痛は起床直後・覚醒時に痛み出すため、頭痛で目が覚めてしまったように感じることもあるかもしれません。
なお、以下にあてはまる場合には脳血管障害が隠れている可能性がありますので、早めに医療機関を受診しましょう。
- いつもの頭痛とは異なる激しい頭痛
- いつもの頭痛と似た痛みだが、いつもより症状が重い
- 頭痛持ちではないのに、突然の頭痛で目が覚めた
- 頭痛で目が覚めた後、麻痺や感覚障害、ろれつが回らないなどの症状がある
睡眠障害による頭痛と、レストレスレッグス症候群
起床時に疑う頭痛の1つとして、睡眠時無呼吸性頭痛があります。この頭痛は朝に起こることや、痛みの特徴が緊張型頭痛と似ていることが知られています7)。もし朝の頭痛に加えて以下にあてはまる場合は、睡眠時無呼吸性頭痛が疑われます。
- 最近体重が急激に増えた
- 家族から睡眠中にいびきや息が止まっていることを指摘された
- 日中に耐え難い眠気や、強い疲労感を感じる
このほか、寝不足と寝過ぎが頭痛を引き起こすこともあります。寝不足/寝過ぎに心当たりがある方は、生活習慣を見直して質の良い眠りをめざしましょう。
- 朝起きたらすぐに日光を30分以上浴びて体内時計(概日リズム)をリセットする
- 日中、規則的に運動を行う
- 就寝前に明るい光やブルーライトを浴びないようにする( 眼と頭痛 もご覧ください)
- 就寝前のカフェイン、アルコール、タバコは控える
- 寝室はリビングと分けて暗くし、適切な温度・湿度に整える
また、睡眠障害の1つであるレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)は、それ自体は頭痛の原因となりませんが、片頭痛患者さんに合併しやすいことが知られています。レストレスレッグス症候群の有病率(病気をもっている方の割合)は、頭痛持ちでない方が1.8%であるのに対して、片頭痛患者さんでは13.7%であったとの研究結果もあります8)。そのため、片頭痛、不眠、寝付きの悪さの3つが揃っている場合にはレストレスレッグス症候群が鑑別にあがります。不眠の原因として足の不快感や動かしたくなるという強い欲求がないかどうか、夜や安静時に症状がひどくなる、足を動かすと良くなるといった特徴がある場合にはレストレスレッグス症候群の可能性について相談しましょう。
おわりに
片頭痛患者さんに、不眠や睡眠時無呼吸症候群を合併することがあります。睡眠に関する訴えや不安があり、頭痛治療をしっかり継続しているにもかかわらず症状の悪化を感じる場合は、睡眠障害が隠れている可能性もありますので、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。
- <参考>
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- 1) 厚生労働省:第80表. 令和元年国民健康・栄養調査報告, p.186, 2020(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html)(2022年12月閲覧)
- 2) 三島和夫:睡眠と生活習慣病との深い関係. 厚生労働省 e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html)(2022年12月閲覧)
- 3) Kripke DF, et al︓Mortality associated with sleep duration and insomnia. Arch Gen Psychiatry 2002; 59: 131-136.
- 4) 鈴木圭輔:片頭痛と中枢性過眠症. 神経治療 2019 ; 36 : 250-253.
- 5) 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.104-106.
- 6) 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.293-295.
- 7) 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.448-450.
- 8) Suzuki S, et al : Evaluation of contributing factors to restless legs syndrome in migraine patients. J Neurol 2011; 258: 2026-2035.