片頭痛治療中に突然起こる頭痛
- 監修:
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済生会熊本病院 脳卒中センター 特別顧問橋本 洋一郎 先生
2023年9月作成
はじめに
片頭痛は医療機関で適切な治療を受けることが大切ですが、治療を受けていても頭痛回数が増えたり、強い痛みが出たりすることがあります。そのような場合、もともとある片頭痛の悪化が原因の可能性もありますが、他の原因が潜んでいる可能性もあります。本記事では、片頭痛治療中の患者さんに起こる頭痛について解説します。
片頭痛治療中に起こる頭痛の原因
頭痛には300以上のタイプが存在するため、片頭痛治療中に起こる頭痛の原因を見抜くのは、医師でも頭を悩ませることがあります。表1は、ある頭痛専門医が頭痛を診断する際の流れを、一般の方にもわかりやすいように簡略化して示したものです。ここからはこの流れに沿って、片頭痛治療中に突然頭痛が起きたときに考えられることを解説していきます。
緊急性の高い頭痛
片頭痛治療中に起きた頭痛が、表2の①~③のいずれかに当てはまる場合は、緊急性の高い頭痛が潜んでいる可能性があります。キーワードは「
脳腫瘍
一般的に朝に痛みが強く出ることが多いとされていますが、それだけで診断できるほどの強い根拠にはなりません1)。
くも膜下出血
雷鳴頭痛や「ハンマーで殴られたような痛み」と表現される非常に強い痛みが特徴です。ただし、まれに痛みがほとんどない場合もあるため注意が必要です。
RCVS
RCVS〔可逆性脳血管
1ヵ月の頭痛日数から考えられること
1ヵ月の頭痛日数が以前よりも増えている場合、その日数によって考えられる病気が違ってきます。
頭痛が毎日起こるようになった場合は、群発頭痛、副鼻腔炎、精神科疾患など、片頭痛以外の病気が合併している可能性が考えられます。
1ヵ月の頭痛日数が15日未満であれば、もともと存在する片頭痛の悪化が原因となっている可能性が考えられます。
1日4時間以上の頭痛が1ヵ月に15日以上起こり、かつその状態が3ヵ月を超えて続く場合は、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)や、片頭痛が慢性化している(慢性片頭痛など)可能性、あるいは両者が同時に起こっている可能性などが考えられます。
薬剤の使用過多による頭痛と慢性片頭痛
薬剤の使用過多による頭痛や慢性片頭痛になってしまうと、治療効果が出にくくなったり、症状が安定するまでに長い時間が必要になったりすることも多いため、そうなる前に、患者さん自身が普段から予防意識をもっておくことが非常に大切です。
薬剤の使用過多による頭痛や慢性片頭痛になりやすい方の特徴として、「月に5日以上頭痛がある(10日以上ある場合はさらに要注意)」「頭痛薬を月に10日以上使用している」「頭痛の緩和と予防が不十分である」ことなどが知られていますので3,4)、思い当たるものがある場合は、自己判断で薬の服用回数を増やす前に、かかりつけ医に相談してください。
また、ストレス、疲れ、睡眠の過不足、空腹、旅行、脱水、アルコールなどは片頭痛を悪化させる原因として知られていますので5)、頭痛回数が多くなってきたと感じた場合には、お酒を控え、規則正しい生活を過ごすように気をつけることも大切です。
痛みの程度に関わらず日数を伝えよう
片頭痛患者さんのなかには、医療機関で頭痛が起きた日数を聞かれた際に、特に痛みが強かった日数だけを申告される方もいらっしゃいます。ただ、前述の通り、頭痛が起きた日数は医師が治療方針を考える際の重要なヒントになりますので、たとえ痛みが軽かったとしても頭痛が起きた日はすべて医師に申告してください。 頭痛ダイアリー をつけておいて受診するのもよいと思います。
その他に原因として考えられること
緊張型頭痛の合併
頭痛の回数が増えていても、日常生活の支障度がそれほど高くない場合は、緊張型頭痛が合併している可能性もあります。特に、体を動かしたりお風呂で体を温めたりすると頭痛が楽になることがある場合はその可能性が高くなります(片頭痛の場合は、いずれも痛みを悪化させる要因として知られています)。
朝に痛む頭痛
朝に頭痛が起こるようになった場合には、前述の脳腫瘍の他に、うつに伴う頭痛、薬剤の使用過多による頭痛、起立性調節障害や体位性頻脈症候群に伴う頭痛などの可能性も考えられます。
感染症による頭痛
風邪や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、インフルエンザなどの感染症が頭痛の原因となることがあります。頭痛以外に発熱や喉の痛み(咽頭痛)などの感染症が疑われる症状がある場合には、できるだけ電話などで事前に医療機関に相談してから受診するようにしてください。
症状や困っていることは医師にしっかり伝えましょう
繰り返しになりますが、片頭痛治療中に起こる頭痛の原因を見抜くのは、たとえ医師だとしても簡単なことではありません。そのため、正確に診断してもらい適切な治療を受けるには、医師に聞かれたことだけを答えるのではなく、症状や困っていることについて自分からしっかり説明することが大切です。
また、頭痛患者さんのなかには、例えば「痛み自体はそれほど困っておらず、それよりも脳腫瘍ができていないかが不安で画像診断を受けたくて受診したのに、結局そのことを言い出せずに痛み止めだけ出されて、もやもやした気持ちのまま診察を終えてしまった」というような経験をお持ちの方もいると思います。一方で、医師はいつも患者さんの困りごとを解決したいと願っていますので、不安や困りごとは遠慮せずに伝えてください。
ただ、どうしても医師に直接言いにくい場合には、自分がいま一番解決してほしい困りごとについて、問診票に書いたり、看護師から医師に伝えてもらったりするとよいでしょう。
- <参考>
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- 1)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.438-439.
- 2)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.414-421.
- 3)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.122-124.
- 4)Katsarava Z, et al : Incidence and predictors for chronicity of headache in patients with episodic migraine. Neurology 2004; 62: 788-790.
- 5)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.104-106.