総監修:
社会医療法人 寿会 富永病院 副院長 (脳神経内科部長・頭痛センター長)/ 富永クリニック 院長
竹島 多賀夫先生

10代の頃から”頭痛持ち”のAさん

2023年2月作成

Aさん:36歳 女性

会社員(メーカー勤務)
夫と子供2人(5歳の娘と3歳の息子)で都内のマンションに住んでいる。
共働きで、産休・育休を経て昨年職場に復帰し、現在はフルタイムで勤務。
性格は、真面目で頑張り屋タイプ。
趣味は、料理、カフェめぐりなど、食べることが好き。

頭痛で頭を抱える女性

10代の頃から、いわゆる“頭痛持ち”。これまでは頭が痛くなると、市販の鎮痛薬などでなんとか対処してきました。しかし、出産を経て職場復帰してからは、頭痛を繰り返すようになり、ひどい頭痛のときは仕事や家事にも支障をきたすようになりました。「受診しなければ」と思う一方で家事や育児に追われ、なかなか自分の時間がとれないAさんにとって、頭が痛い日々が続いています。

頭痛HISTORY:私は頭痛持ち。「薬を飲んで、寝る」で頭痛と付き合ってきました

「学生の頃から頭痛持ちでした。でも、当時は月に1~2回起こる程度でしたし、市販の鎮痛薬を飲めば、なんとかやり過ごせていたのです」。

頭が痛くても、それを理由に学校や部活を休むことはなかったというAさん。その代わり、10代の頃から市販の鎮痛薬を手放せなくなっていたといいます。20代になり頭痛が起こると、「いつもの頭痛だから、薬を飲んで寝たら治る」と自分にいい聞かせ、鎮痛薬を飲んで一晩寝るという“自分スタイル”の対処法を見つけました。

進学、そして就職。大学でも職場でも、「いつ頭痛に襲われるか分からない」という不安を抱えながらも、「もしかしたらこのままうまく付き合っていけるかもしれない」と考え始めていたAさん。

しかし、30代になり、育休を終え職場に復帰すると、頭痛に悩まされる日が増えたように感じたといいます。頭が痛いといっても、だるく重いように感じる程度の頭痛ですが、月に3~4回ほど頭の両側がズキンズキンと脈打つように痛みます。ときには吐き気も伴うようなひどい頭痛が起こって、そのときは市販の鎮痛薬も効かずに困っていました。「いつ、どんな頭痛が起こるか、いつもビクビクしながら過ごしていたんです」。

Aさんの頭痛は昼過ぎから痛み始めることが多く、「午後から大事な会議や打ち合わせがある日は、会社に行くのが憂鬱で…」と、ため息交じりに打ち明けてくれました。

職場編:会社は「頭痛なんて病気ではない」という雰囲気。つらくても仕事は休めません

パソコン前で頭痛で頭を抱える女性

大手のメーカーに勤務するAさん。仕事はパソコンでの事務仕事がほとんどです。しかし、職場復帰してからというもの、パソコンのモニターを見ていると、急に目がチカチカして気分が悪くなり、その後激しい頭痛に襲われるようになりました。目の前で光がチカチカ・キラキラするのは、閃輝暗点(せんきあんてん)といって片頭痛の前兆の代表的な症状です。目の疲れと思い込んでいたAさんは、目薬を差したり、ブルーライトカットのメガネをかけたり、さまざまな方法を試したそうですが、症状は治まらず、仕事に集中できないことが増えました。

片頭痛では少し横になると症状が落ちつくことも多いようですが、会社では横になるわけにいきません。Aさんの場合、少し体を動かせばよくなることもあるため、頭痛が起こると「ちょっと運動してくるね」といって席を外すこともあるようですが、最近はその回数が増え、同僚たちも心配していたそうです。

そもそも「頭痛」ではなく「運動」といって席を立つ理由について、Aさんは次のように話しています。

「上司は、“頭痛なんて病気ではない”というタイプ。だから部署の同僚にも、頭痛が理由で休むとはいいにくいのです。『頭が痛いので、ちょっと歩いてきます』とか、『頭痛がひどいので今日はリモートワークにさせてください』といえれば、もっと楽になるのかもしれませんが…」。

特に産休・育休を経て職場復職したばかりのAさんにとって、気軽に「休む」とはいえないプレッシャーがあり、責任感の強い性格から仕事に穴を空けることへの罪悪感も人一倍強いようでした。さらに話を聞くうちに、Aさんが頭痛を我慢しながら仕事を頑張る最大の理由が分かりました。「子供が小さいので、急なお迎えなど何があるか分からない。だから休暇は自分ではなく、子供のためにとっておきたいんです」。

自分の頭痛くらいでは、会社を「休まない」、「休めない」というAさん。机の引き出しの中は、薬箱のように何種類もの鎮痛薬が常備されていますが、もはや1剤では効かず、何種類も鎮痛薬を飲んで気持ちが悪くなることも。そんな状況を見かねた同僚たちも、受診を勧めるようになっていました。

家庭編:ひどい頭痛で家事が手につかず、子供を怒ってしまい自己嫌悪に

Aさんの家庭は共働き。夫は帰りが遅いため、平日の家事や育児はほぼAさん一人でこなしています。もともと家事を要領よくこなすAさんですが、家にいてもひどい頭痛に悩まされることもあり、そんなときは家事がまったく手につかず、寝込むことも。双方の実家は遠方なので、両親に頼ることもできません。

「症状がひどいと、家事が本当にしんどくて…。ソファの上は取り込んだ洗濯物の山ということもあります」と肩を落とすAさん。大好きだった料理も、最近はにおいにむかついて、楽しめなくなってしまったといいます。

さらにAさんを苦しめるのが、子供たちのけんかする声やテレビから流れる大きな音。生活の中のさまざまな音が、刃物のように頭を刺激して、症状が悪化することもあるそうです。ついイライラして子供を怒鳴ってしまったり、子供の相手をするのがおっくうになって、「あっちに行って!」と怒ってしまい、後で自己嫌悪に陥ることもあるそうです。

少し横になりたいと思っても、家でも横になる時間はなく、夫の帰りも遅いため、いつも睡眠不足のAさん。夫に窮状を訴えたところで、「肩が凝っているから頭が痛いんじゃない?姿勢も悪いしね」と真剣に取り合ってもらえず、不安と不満が膨らんでいました。

受診のきっかけ編:一歩踏み出す勇気が大切

それでも自分より家族のことが優先で、自分の治療は後回しだったAさん。同僚に受診を勧められても、「そのうち」と生返事でしたが、よく「頭が痛い」といっていた知人が脳梗塞で入院したと聞き、自分の頭痛も重大な病気のサインではないかと疑うようになりました。

そんなAさんが、初めて自分の症状を打ち明けることができたのは、子供を小児科に連れて行ったときのこと。薬局で薬を待っていた際、再び頭痛の前兆が起こったため、思い切って顔見知りだった薬剤師に相談したのでした。薬剤師から、「頭痛外来」の受診を勧められたAさん。あまり聞き慣れない診療科だったのでスマホで検索。頭痛外来のことが載っている 頭痛オンライン を見つけ、そのサイトにある医療施設検索で会社の近くにあるクリニックを見つけ、すぐにWEB予約をしました。

「病院にかかるといっても何科にかかればよいか分からなかったので、“頭痛外来”を教えてもらい、一歩踏み出せた気がします。頭痛専門の先生に診てもらえるというのも、心強かったです」(Aさん)。

クリニックでの受診編:頭痛外来で自分に合った治療を見つけよう

会社帰りに受診したAさん。自分自身のことで受診するのは久しぶりとあって、それでなくとも緊張していましたが、先生に何を聞かれるのか考えただけでさらに不安になり、待ち時間が長く感じられたそうです。

名前を呼ばれ、診察室に入ると、案の定、医師からさまざまな質問をされましたが、「頭痛の頻度を聞かれても、具体的な回数さえ答えることができなくて…」。さらに、何をしたときに頭痛が起こりやすいのか、何をすると悪化するのかも聞かれたそうですが、「受診したときは頭痛が起こっていなかったので、いつ、どんなときに起こるか、どのように痛いか、きちんと伝えることができませんでした」。結局、答えられたのは、「寝不足のときに起こりやすい」ことぐらいだったといいます。

症状から、片頭痛と緊張型頭痛が混在していると診断されたAさんは、それぞれの頭痛には起きるきっかけがあることを教えてもらい、「頭痛ダイアリー」をつけることになりました。頭痛ダイアリーは、頭痛の症状を医師に正しく伝えるためのツールであり、これをつけると頭痛の頻度やどんなときに起こるのかを自分も医師も把握でき、治療に役立てることができるのです。問診ではうまく答えられず、歯がゆい思いをしたAさんも、「これさえあれば、先生に何か聞かれても大丈夫ですね」と安心した様子です。

受診後のAさんは、医師から処方された薬で、つらい症状をある程度抑えることができるようになり、家事や仕事への影響も少なくなったそうです。

「仕事にも集中できるようになり、なんといってもイライラせず、子供との時間を持てるようになったのが嬉しいです。こんなことなら思い切ってもっと早く相談すればよかったです」。頭痛との本当の“付き合い方”を知ったAさんは、笑顔で語ってくれました。