鎮痛薬に頼りすぎのBさん
2024年3月作成
Bさん:40歳 女性
看護師(総合病院の病棟勤務)
シングルマザー(10歳の子どもが1人)
関西在住
性格は、勤勉で責任感が強く、面倒見がよい。
趣味は、旅行、テーマパークなどに出かけること。
学生時代から“頭痛持ち”だったBさん。頭痛は月経のときに起こることも多かったので、「生理中だから仕方ない」と考え、市販の鎮痛薬を飲んで、なんとかやりすごしてきました。
看護師として勤務するようになってからも同じような状況が続いていましたが、持ち前の責任感から、またシフトの都合もあり、簡単に休みを取ることもできず、鎮痛薬を飲む回数が増加。しかし、症状は一向に改善せず、最近では鎮痛薬を飲む回数が増えただけでなく、イライラすることが増えたそうです。
子どもが小学生になり、夜勤にも復帰したBさんですが、職場でも家庭でも「いつ起こるか分からない頭痛」に振り回される毎日が心の負担になり始めているといいます。
職場編:鎮痛薬でなんとか頭痛をコントロールしていたが…
シングルマザーとして、子育てをしながら看護師として働くBさん。最近仕事がさらに忙しくなった一方、「頭痛の起こる頻度も増えた」と悩んでいます。
学生時代から“頭痛持ち”だったというBさん。就職してからも度々頭痛に悩まされていましたが、持ち前の明るさと責任感から、「患者さんや同僚につらい顔は見せられない」と市販の鎮痛薬を飲みながら頭痛をコントロールしてきました。
しかし、頭痛の回数は増える一方。朝起きたときから頭が痛い日もあり、前ぶれなく襲ってくる頭痛に、鎮痛薬を飲む日が増えていったといいます。
「鎮痛薬が効かなくなってきたと感じると、すぐに別の種類の鎮痛薬を試しました。『これが効かなくなっても、他の選択肢がある』と思うことで、安心していたのかもしれません」。いつしかBさんの中には「このくらいの痛みなら、この鎮痛薬で大丈夫」「今日は夜勤だから、これにしよう」という、自分なりの使い分けができあがっていたそうです。
「特に不安なのは夜勤の前でした。夜勤中に頭痛が起きたらどうしようと思うと、すでに頭が痛いような気がして…。とりあえず鎮痛薬を飲み、気持ちを落ち着かせていました」。「眠くなるから」と間食はとらず、濃いコーヒーを何杯か飲むのがルーティンになっていたそうです。
しかし、なんとか夜勤を乗り越えても、頭痛は夜勤明けの非番のときも襲ってくるようになりました。「頭痛だけでなく、イライラすることが増えてしまって…」と、ため息をつくBさん。せっかくの休日も、頭痛が心配で子どもを遊びに連れて行ってあげることができず、気持ちが不安定になっていったそうです。
家庭編:仕事や育児のストレスが不安に拍車をかける
Bさんには仕事以外でも心配の種がありました。10歳になる一人娘のことです。産休・育休を経て数年前に職場復帰したBさんは、ブランクを取り戻すべく仕事に打ち込んできました。子どもが小学生になったのを機にフルタイム勤務に。夜勤にも復帰し、病棟の新人ナースの指導担当を任されるなど、仕事にやりがいを感じていました。しかし、子どもの急な発熱や学校の行事など、家庭の事情で勤務調整が必要になることも多く、「職場では肩身の狭い思いをしていた」とのことです。お迎えなどを母親にお願いできる日もありましたが、母親も仕事をしているのでピンチヒッターが見つからないこともしばしば。シフトを変更してもらうたび、「みんなに迷惑をかけている」という思いにさいなまれるといいます。
職場復帰の際、Bさんの背中を押してくれたのは、ほかでもない娘さんでした。「子どもが小さいうちは」と復帰を迷っていたBさんでしたが、「看護師のお母さんが大好き」という娘さんに、一生懸命働く姿を見せたいという思いがありました。忙しい仕事の一方で、事前にシフトを調整してもらい、子どもの授業参観や運動会など、学校のイベントにはできるだけ参加するようにしていました。しかし、雨天延期など急なスケジュール変更も多く、職場に度々シフト変更をお願いするのは、気が引けるのだといいます。
「どこにいても、シフト表のことが頭から離れなくて…」と、力なく笑うBさん。先日も大雨で学校が急に休校になったとき、娘さんを一人で留守番させてしまったことを後悔しているといいます。「いつも寂しい思いをさせてしまい、娘には申し訳ない気持ちでいっぱいです」。夜勤の日は、娘さんの夕食を用意してから家を出てくるそうですが、「簡単なものしか作ってあげられなかった」と肩を落とすことも…。
「明日は休みなので、大好きなテーマパークにでも連れて行ってあげたいのですが、子どもたちの歓声を聞くと頭が痛くなってしまうんです。薬もあまり効かないので、外出するのが怖くなってしまって」。
気づき編:薬の飲みすぎで頭痛が起こるって本当?
職場でも家庭でも頭痛におびえながら過ごす毎日。最近では、毎日のように頭痛が起こるようになり、「さすがにおかしいと思い始めていた」というBさんでしたが、相変わらず鎮痛薬だけが頼みの綱でした。「症状がなくても、鎮痛薬を飲まないと不安になってしまっていたんです」。
そんなある日、昼休みに何気なく見ていたインターネットの記事で、「薬の飲みすぎによる頭痛」があることを知ったBさん。「こんな記事を見つけたんだけど」と早速職場で話題にしたところ、先輩看護師から、「実は私もそうだったの」と意外な答えが返ってきました。「思い切って病院で治療を始めたら、頭痛の頻度が減って、かなり楽になった」という先輩に、「私もずっと悩んでいたんです!何科で診てもらえるんですか︖」と悩みを打ち明けたとのこと。勤務先の脳神経内科に頭痛専門医がいることを教えてもらい、早速予約を入れました。
受診編:薬物乱用頭痛では、できるだけ薬を使わないようにすることが大切
脳神経内科の待合室で、ソワソワするBさん。「患者さんの立場は慣れていない」と苦笑いしながらも、できるだけ正確な情報を伝えようと、頭痛が起こる状況を頭の中で整理していました。その甲斐あって、医師に質問されると、具体的な回数は分からないものの、2日に1回以上は頭痛があるように思うこと、ひどくならないように頭痛が起こりそうな「予感」がしたら鎮痛薬を飲んでいること、頭の両側がズキズキ痛むことなどを伝えることができました。
さらに、「いつ頃から頭痛があったのか」と問われ、「10代の頃から…」と振り返るBさん。「母親も頭痛持ちだったけれど、市販の鎮痛薬で対処していたので、自分も『病院に行くほどではない』と思っていた」ことなどを話しました。
Bさんが戸惑ったのは、「どんなときに鎮痛薬を服用しているか」という質問でした。「本当のことを話しても大丈夫かな」と気にしながら、夜勤前には症状がなくても鎮痛薬を飲むこと、頭痛以外に月経痛やその他の痛みを抑える目的でも鎮痛薬を飲んでいること、いろいろな種類の鎮痛薬を自分の中で使い分けていることなどを正直に打ち明けました。職場や子育ての場面で、頭痛が起こると困るという不安から鎮痛薬に頼ってしまっていること、特に職場復帰後、イライラすることが増えたこと-、Bさんの告白を医師は一つずつうなずきながら聞いていました。
「以前から頭痛がある」「月に15日以上頭痛がある」「月に10日以上、頭痛薬を服用している」「これまで効いていた頭痛薬が効かなくなったように感じる」といった状況もあり、Bさんはもともと片頭痛があり、そこに薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)が加わっていると診断されました。
医師から原因が鎮痛薬の飲みすぎであると説明されたBさん。鎮痛薬をやめたほうが良いことは理解できましたが、長年飲み続けてきた鎮痛薬を一気にやめる自信がなく、おそるおそる医師に尋ねました。「いま飲んでいる薬はすぐにやめなければいけませんか?薬がないとやっぱり不安なんです…」。そんなBさんに、医師は予防治療を行いながら、徐々にこれまでの薬を減らしていく方法を提案しました。「それならできそう!」と治療に前向きになったBさんに、医師は空腹や睡眠不足、カフェインの過剰摂取といった頭痛のトリガーとなっている生活習慣を変えていく必要があること、職場や子育てなどの不安やストレスを1人でため込まないようにすることなどもアドバイスしました。
その後、「頭痛ダイアリー」の書き方を教えてもらい、薬を飲んだ日を記録するよう指導されたBさんは、「生理や夜勤の状況などもあわせて記載しておけば、どんなときに頭痛が起こりやすいか、何が頭痛の原因になっているのかを知る手掛かりになりそうですね」と、頭痛の根本原因の改善に意欲を見せていました。
受診後は、「予防的に鎮痛薬を服用しなくなったことで、頭痛の頻度も減り、仕事にも集中できるようになった」とのこと。「痛いときは処方された薬を服用することで、むやみに市販薬に頼らない生活を送れるようになりました」とすっかり自信を取り戻したようです。
さらに、自身の体験を通し「頭痛で悩んでいる方がいたら、頭痛専門医や頭痛外来で診てもらうことをおすすめしています」というBさん。鎮痛薬をたくさん飲んでいる患者さんに気付いたら、自ら声をかけ、薬の飲みすぎで起こる頭痛があることを伝えるなど、‟自分と同じような患者さんをつくらないため”のサポートを行っています。
「きちんと受診して、頭痛の原因と向き合っていくことが大切」と気付いたというBさん。「次の休日、娘とどこに行こうか相談中です」と嬉しそうに笑いながら、「娘の笑顔のためにも、これからも治療を続けていくつもりです」と決意を語ってくれました。