毎日の頭痛に悩む女子高校生Cさん
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一般財団法人筑波麓仁会 筑波学園病院 小児科/
医療法人財団 健貢会 東京クリニック 小児・思春期頭痛外来藤田 光江 先生
2025年2月作成
Cさん:15歳 女性
県立高校の1年生
両親(ともにフルタイム勤務)、弟(12歳、小学6年生)の4人家族の長女
北関東の中核市在住
大学進学のための勉強と、所属するチアリーディング部での練習、どちらも手を抜かない頑張り屋
部活の仲間と撮った動画をSNSに投稿することや、動画配信を見ることが楽しみ

Cさんは中学生の頃に片頭痛と診断され、薬を飲むことで対処してきました。しかし、高校生になってから、これまでの薬では頭痛が治まらないことが増えてきました。夏休みが明けた頃からは毎日のように頭痛があり、朝から頭が痛くて起きられないこともしばしば。頭痛と同時に吐き気をもよおすこともあります。学校や部活を休みたくないのに、頭痛のせいで思うように行動できず、気持ちも落ち込んでしまいます。
頭痛HISTORY:今までの片頭痛の薬が効かない!
Cさんがズキンズキンという強い頭痛を感じるようになったのは中学生のとき。ちょうど受験勉強が始まった頃でした。かかりつけのクリニックで「片頭痛」と診断され、薬を処方されていました。通院頻度は多くはなく、頭痛が始まってすぐに薬を服用すれば症状は改善することが多かったため、頭痛で悩むほどではなかったといいます。
努力が実り、Cさんは今年の春から進学校として有名な県立高校へ入学しました。憧れのチアリーディング部にも入部し、勉強も部活も充実した学校生活をスタートさせた一方で、頭痛の頻度が増えてきたそうです。
「これまでは頭痛が発作的に起こっても、すぐに薬を飲めば治まることが多かったのですが、最近では薬が効かなくなってきて、締め付けられるような頭痛がダラダラと毎日続くこともあります。特に夏休みが明けた頃からひどくなって、朝起き上がれないこともありました」。
授業や部活を休みたくないCさんは、頭痛を我慢しながら何とか起き上がって学校に行くこともしばしばあったそうです。遅刻をすることもありましたが、なるべく学校は休まないようにしていました。「学校は休みたくないけれど、行くのは本当にしんどくて。思うように行動できないことが嫌でした」。

日常生活編:性格や生活習慣が頭痛を招いている可能性
Cさんには小学生の弟がいます。両親が共働きということもあり、家庭では両親の手伝いや、弟の勉強を見るなどの世話も進んでこなしています。「親も忙しいですし、私もできるだけ家事を手伝うようにしています。弟がいるので、親に負担をかけないように何としても現役で国公立の大学に入りたいとも思っています」。
“しっかり者で努力家のお姉ちゃん”という印象のCさん。「母は私が学校を遅刻したり、たまに休んでしまうことを心配していました。以前は薬で治ることが多かったから、“本当に頭痛なの?”って疑われちゃうこともあって。心の中では、“本当に痛いのにな”、“怠けているわけじゃないんだけどな”って思っていました。でも、母も仕事と家事で忙しくしているので、私のことで迷惑をかけたくなくて。頭が痛いことで、心配させたくなかったんです」とCさんはいいます。
母親によると、薬を服用しても治らないCさんの頭痛に、親としてどう対処したらよいのかわからなかったそうです。母親も悩んでいました。
スマホが見られるくらいの頭痛のときは、動画を見ながら頭痛が治まるのを待つこともあり、つい見続けてしまって、夜更かしをすることも。「父には夜更かししているから、朝起きられないんだって怒られたこともあります」と肩をすくめるCさん。次から次へと流れる動画をベッドで見ているうちに、夜中になってしまうことも多かったといいます。

また、Cさんはダイエットのために食事の量を減らしていました。朝食を食べないことも多かったそうです。「SNS用の動画を部活仲間と撮ることもあるのでスタイル維持は大事なんです。友達はみんなスタイルが良いから、私も痩せていないと恥ずかしくて」。母親からは、「栄養不足や生理が止まることもあるから過度なダイエットはしないように」といわれていました。「生理は不順でしたけど、2ヶ月に一度くらいはきていたので、自分では問題ないと思っていました。それに、ダイエット中でもお腹は空いちゃうので、部活帰りにコンビニでお菓子やパンを買っちゃうことはありましたよ。頭が痛くても、お菓子は食べられるんです」とCさんは無邪気に笑います。
学校生活編:受診のきっかけは保健だより
やがて頭痛のせいで遅刻や学校を休むことが増え、授業だけでなく、部活の練習にも参加できない日が多くなり、Cさんはみんなから後れをとることに強い不安を感じていました。
「中学生の頃はいつも成績上位だったのですが、高校では1学期の中間・期末テストで順位がすごく下がっちゃってショックでした。部活も自分よりダンスがうまい人ばかりだし、休んでいる場合じゃない、どうにかして頭痛を治したい、と焦っていました」とCさんは当時の気持ちを打ち明けてくれました。
登校後に頭痛が我慢できないときは保健室で休むようにしていました。保健室のベッドで休んでいたある日、保健室の先生から「このままだと、どんどん欠席が続くようになってしまうかもしれないから、病院で頭痛をきちんと診てもらったほうがいいよ」とアドバイスされました。「ご家族にも読んでもらってね」と渡された保健だよりには、『思春期の頭痛と頭痛外来』という見出しがついていました。「保健だよりを読んで、お母さんが一緒に病院に行ってみようか、といってくれたんです」。
そして、母親と一緒にかかりつけ医を受診しました。

受診編:「自分の気持ちを外に出せない」「完璧主義」なども頭痛の原因になることがある
子どもの頃からCさんをよく知るかかりつけ医は「ちょっと頑張りすぎちゃったかな」と優しくCさんに声をかけてくれました。その言葉を聞いて、Cさんは「わかってもらえたという気持ちで思わず泣きそうになった」とのこと。頭痛についてより詳しく診てもらえるように、頭痛外来を紹介されました。
頭痛外来では、診察前に詳細な頭痛の問診票を記入し、身長、体重、血圧検査を受けました。Cさんと母親はまず同席で、頭痛以外の進行する神経症状(例えば物が二重に見えるなど)がないか問診を受け、さらに手短に体の神経を診る検査がされました。その上で緊急に画像検査は必要ないが、頭痛の経過が長く、貧血や甲状腺の病気も心配とのことで、血液検査を勧められました。血液検査の結果を待っている間、Cさんと母親は別々に話を聞かれました。問診では“頭痛が起こる時間帯”、“痛む部位や痛みの程度・性質”のほか、“発作的に突然頭痛が始まるのか、朝からずっと痛いのか”、“これまで使用した頭痛薬がいつ頃から効かなくなったと感じているか”、“食欲の有無”など、細かく聴き取りをされました。また問診票にあった“不登校・不規則登校”に○を付けたので、“欠席日数”、“定期試験を受けているか”など具体的な学校生活を聞かれました。Cさんは緊張しながらも、頭痛を感じるときの状況や気持ちを思い出し、医師の質問に答えました。
血液検査に異常はなく、Cさんの頭痛は中学生の頃からの「片頭痛」に加えて、「緊張型頭痛」が混在し、「連日性頭痛」になっている状態と診断されました。
「頭部だけの問題だと思っていたら、先生から“学校で気になること”や“生活習慣”の質問もあって驚きました」とCさんはいいます。医師から、三食しっかり食べること、スマホを見る時間を減らすこと、早寝早起きなどの生活習慣の指導を受けるとともに、片頭痛と思う時のみ服用するよう説明され、鎮痛薬が処方されました。さらに、医師はCさんに「殻を破って、自分の気持ちを外に出す練習をしてみよう」と伝えました。「先生に、腹が立つときは親に怒ってもいいんだよ、といわれてびっくりしましたけど、たしかに今までそうした気持ちを出すことはしていなかったかもしれない、と気づきました。でも、それが頭痛に関係しているなんて思ってもみませんでした」とCさんはいいます。この日の診察以降、Cさんは母親に対して自分の意見や気持ちを伝えるよう心がけるようになりました。
また、Cさんは、医師から勧められた「頭痛ダイアリー」をつけることにしました。Cさんがつけている「頭痛ダイアリー」は、毎日の頭痛の様子を10段階でグラフ化するとともに、睡眠時間や体調、生活を記入するものです。その後の診察で、「頭痛ダイアリー」を見た医師から「この日は頭痛があったのに、こんなに頑張ったんだね、偉いね」と声をかけられると、「私って、結構ちゃんとやれているんだと感じることができた」とCさんはいいます。

はじめは、「薬が効く片頭痛と、薬が効かない連日性頭痛がある」ということにあまり納得のいかなかった母親も、Cさんが自分の意見を発言するようになり、「ときどき親に向かってかわいくないことも口にするようになっちゃいましたけど、娘の頭痛は軽くなったようですし、表情も明るくなった気がします」と
「これまで完璧主義で頑張りすぎていたと思っています。成績も部活も、まぁまぁできていたら、それでいいやと思うようにしています」とCさん。最近は、朝から長時間にわたって頭痛を感じることは減り、ときどき起こる片頭痛発作が分かるようになったといいます。早寝早起きを心がけ、食事も三食きちんととるようになりました。
「今でも急に頭が痛くなることはありますが、そのときはすぐに薬を飲んで対処できています。家でも学校でも自分の気持ちを表現したり、自分で自分を認めてあげたりすることも大切なんだなって思います。部活を休んでも、後で友達にサポートしてもらっていますし、頭痛ともうまく付き合っていけそうです」と前向きに語ってくれました。
頭痛ダイアリーについて知りたい!使ってみたい!と思ったら
頭痛ダイアリーはご自身の頭痛のことを先生に伝えるアシストツールです。数日前の頭痛のことを先生に聞かれて、具体的に説明することはできますか?頭痛ダイアリーに記録していると、受診した際に先生と頭痛ダイアリーを見ながら一緒に確認することができます。
頭痛ダイアリーにはさまざまな種類があり、以下のサイトでくわしく確認できます。
頭痛の始まりと終わり、痛みの強さを線で描くので、小児や思春期の頭痛の記録におすすめです。
また、学校向けの頭痛啓発パンフレット「学童・生徒の頭痛の知識(養護教員用頭痛冊子 2013年版)」も用意されています。
頭痛の程度と日常生活への影響度を3段階で記入します。MEMO欄があるので、頭痛の状態やその日のイベント、天候なども記録できます。
頭痛オンラインでも 頭痛ダイアリー をダウンロードでき、記入方法をご紹介しています。