生理前後の頭痛に悩むDさん
- 監修:
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鳥取県済生会境港総合病院 特任副院長/脳神経内科粟木 悦子 先生
2025年12月作成
Dさん:25歳 女性
ITベンチャー企業に勤め始めて2年目
一人暮らし(両親は都内から離れた地方都市に在住)
大学進学を機に上京し、都内在住
仕事で期待されながらも、ストレスの多い日々を過ごす。元々頭痛持ちであったが、生理周期にあわせて、毎回、数時間にわたり、吐き気を伴う頭痛が繰り返し起こるようになった。市販の鎮痛薬を飲んでも効かなくなってきた。
Dさんは10代の頃から、生理のときに頭痛がありましたが、これまでは市販の鎮痛薬を飲むことで対処しており、医師の診察を受けたことはありませんでした。
生理の前後に腹痛に加え頭痛も起こることは何となく分かっていましたが、ただの生理痛だと考えていました。しかし、就職してから症状が悪化し、生理時以外にも頭痛が起こるようになりました。さらに、生理のときの頭痛は吐き気を伴うようになり、仕事を休まざるを得なくなりました。
「職場にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない」と思ったDさんは、医療機関を受診することを決心します。
頭痛HISTORY:生理前後の頭痛が前よりひどくなり、仕事に行けないことも…
Dさんが頭痛を自覚するようになったのは、中学生~高校生の頃からでした。生理がある頃に、頭の右側だけ、ズキズキする頭痛を感じるようになったのです。ただ、市販の鎮痛薬を飲めば頭痛が治まっていたので、頭痛についてはあまり気に留めず、そのまま大学時代を過ごしました。
大学卒業後、ITベンチャー企業に就職したDさん。大学でもIT関連の勉強をしていたので、即戦力として期待され、やりがいを感じながらも多忙な日々を過ごしていました。
しかし、これまでとは異なるタイミングで頭痛が出てくるようになり、痛みの様子も次第に変わってきました。生理の時でなくても頭痛が起こるようになり、さらに生理のときには、毎回、数時間にわたり、吐き気を伴う頭痛が繰り返し起こるようになったのです。
「痛みもひどいうえに、吐き気が出てきたことで、『ちょっとまずいかも』と思いました。今まで、そこまでひどい頭痛の経験はなかったので…」。
その後、さらに困る事態が起こるようになりました。朝から吐き気を伴う頭痛が起こり、体を起こすのが辛い状態になりました。また、鎮痛薬を飲むと一旦は楽になるものの、しばらくすると痛みがぶり返すことが増え、鎮痛薬が効きにくいと感じることが増えました。
はじめての受診編:生理痛じゃなくて、片頭痛!?
Dさんは、インターネットやSNSで生理痛を相談できる病院を検索して、婦人科のクリニックを受診しました。
医師から生理のパターンや頭痛・腹痛のひどさ、頻度などを尋ねられ、ひとつひとつ答えていくDさん。
「生理は遅れることがないのですが、腹痛は以前からありました。頭痛は、生理が始まる数日前から出てきます。生理中の頭痛はとてもつらいです…ベッドから起き上がれません。以前は薬を飲めば問題なく過ごすことができていたのですが、今は飲むと少し良くなるくらいで、ぶり返してしまいます」。
Dさんの話を聞いた医師は、落ち着いた声で説明を始めました。
「市販薬が効かず、日常生活に影響が出るほどの頭痛は問題ですね。片頭痛の可能性も考えられるので、一度頭痛の専門の先生に診てもらったらどうでしょうか?」
Dさんは思わず驚きました。「生理痛じゃないのですか?」
医師が答えます。「お腹の痛みなどもあるので、生理痛もお持ちだと思います。ただ、頭痛に関しては生活に支障があるレベルまで悪くなっていますから、きちんと診断してもらい、専門的な治療をしたほうが良いと思います。頭痛専門医を紹介しましょうか?」。
医師の説明を聞いても、Dさんは「そんなに重症なのかな?」とすぐには実感がわかなかったのですが、このままでもいられません。頭痛専門医を紹介してもらうことにしました。
治療開始編:記録してわかってきた、私の片頭痛
頭痛専門医のもとを訪れたDさん。問診と検査の後、専門医から「生理のときにひどい頭痛があって、薬を飲んでもぶり返すのですね」と確認され、Dさんは大きくうなずきました。
Dさんは片頭痛の診断を受けました。今飲んでいる市販の鎮痛薬は飲むのをやめ、処方された薬で治療しつつ、頭痛ダイアリーをつけるようアドバイスを受けました。「この頭痛ダイアリーに、頭痛のある日、その強さ、薬を飲んだ日を記録していってください。そうすると、頭痛の回数やパターンが分かってきます。生理があった期間も書き留めておいてくださいね」。
Dさんは、気になることを質問してみました。
「あの、私の頭痛って良くなるのでしょうか…?」。
医師は「これまで大変でしたよね。生理のときは、薬が効きにくい、ひどい痛みで長く続く片頭痛が出てくることがあります。Dさんに限らず、多くの女性が悩んでいる頭痛なのですが、幸い治療法はあります。すぐには良くならないかもしれませんが、少しずつ良くしていきましょう」とDさんに伝えました。
Dさんはホッとして、思わず笑みがこぼれました。
医師は、薬の飲み方と初期の治療目標を付け加えました。
「今日処方する薬は、頭痛が起きたらできるだけ早く、遅くとも1時間以内に飲んでください。ただし、飲みすぎは禁物です。薬を月に10日以上飲まなくて済むように1)、頭痛をコントロールしていきましょう。薬を飲む回数が減らせたり、1回の頭痛発作が軽くなったりすると、良い徴候です」。
頭痛専門医の言う通りに治療を始め、頭痛ダイアリーで記録をつけ始めたDさん。すると、時が経つにつれて頭痛にパターンがあることが分かりました。
頭痛ダイアリーを使ってみたいあなたへ
頭痛ダイアリーは、ご自分の頭痛の状況が客観的に評価できる、とても便利なツールです。頭痛ダイアリーをきちんとつけていれば、頭痛の回数やパターン、頭痛と生理の関係などが分かります。「そこまで頻繁に頭痛はない」と思っていても、ダイアリーをつけてみると「2週間に10回もあった…」なんてことも。治療効果(頭痛回数の減少等)も確認できて、治療を続けるモチベーションにもなります。
頭痛の程度と日常生活への影響度を3段階で記入します。MEMO欄があるので、頭痛の状態やその日のイベント、天候なども記録できます。
頭痛オンラインでも 頭痛ダイアリー をダウンロードでき、記入方法をご紹介しています。
頭痛との付き合い方編:治療からセルフケアへ、一歩ずつ
頭痛専門医に通って4ヶ月。Dさんは毎日、頭痛ダイアリーをつけて生活しています。頭痛への対応にも慣れてきて、仕事もこなせています。
頭痛ダイアリーで頭痛回数の減少が確認でき、実際に頭痛に悩まされることが減ってきたので、Dさんの治療意欲はぐんと高まりました。
通院を続けるなかで、頭痛専門医から頭痛体操を教えてもらいました。腕を振る、肩を回すといった簡単な体操で頭痛が予防できると聞いて、Dさんは興味津々。仕事先でも、少し時間ができたら積極的に体操をするようになりました。
さらに調べてみると、ヨガで頭痛を軽くできる可能性があるとSNSで知ったDさん。専門医に相談したところ、「ご自分で『リラックスできるな』と思うことなら、何でも大丈夫ですよ。選択肢をたくさん持っておくと、頭痛への対応がより柔軟にできますね。ただ、頑張り過ぎない・やりすぎないようにしてくださいね」とアドバイスしてもらいました。Dさんは「近いうちにヨガ教室に通ってみようかな」と少し前向きな気持ちになってきました。
【頭痛体操のすすめ!】
スキマ時間でもできる!片頭痛を予防する2分間の簡単ストレッチ
長年にわたり頭を支えている首のまわりの筋肉は、疲労がたまりやすく、硬くなりやすいので、頭痛の原因の1つになることがあります。頭痛体操では、首のまわりの筋肉をストレッチし、筋肉のコリや疲れをとることで頭痛を和らげることが期待されます。
一人で悩まずに「治す」「防ぐ」頭痛体操のすすめ!
動画を見ながら頭痛体操を一緒に行うことができます。
- <参考>
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- 1)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修:頭痛の診療ガイドライン2021, p.348-350, 医学書院, 2021.
