総監修:
社会医療法人 寿会 富永病院 副院長 (脳神経内科部長・頭痛センター長)/ 富永クリニック 院長
竹島 多賀夫先生

頭痛のオンライン診療〜通院を諦めてしまう前に〜

監修:
大林クリニック 院長
大林 克巳 先生

2024年5月作成

はじめに

頭痛を病院で診てもらいたいけど、病院が遠い、何度も通うとなると…といった理由でなかなか受診に踏み切れない方も多いと思いますが、オンライン診療という選択肢があることをご存知でしょうか。
本記事では頭痛におけるオンライン診療のメリットや、受診の際に気をつけることについて解説します。

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適切な治療と社会的損失の改善には医師による診断が重要

繰り返し頭痛に悩まされている方であっても、自分が頭痛持ちであるとの自覚がなかったり、頭痛は病気ではないと思っていたりするために、医療機関を受診されない方が多くいます。しかし、頭痛のなかでも特に片頭痛は生活支障度が高く、仕事や家事、学業のパフォーマンスを大きく低下させるため、これを放置することは生活の質の低下だけではなく、経済的損失にもつながってしまいます。実際、片頭痛による経済的損失は、日本全体で年間3,600億円〜2兆3,000億円にのぼる との試算もあります1)

頭痛に市販薬だけで対応されている方も多いですが、「痛いから飲む」から「痛くなる前に飲む」ようになってしまった方は要注意です。薬剤の使用過多による頭痛が引き起こされている可能性があります。
また、なかには自分の頭痛を「自分は肩こりがひどいから緊張型頭痛である」とか、「頭の片側が痛むわけではないから片頭痛ではない」と捉えている方もいます。しかし、実は片頭痛は首の痛みやこりからはじまることも多く、誤ったイメージによる自己判断が適切な対処の妨げとなっている場合もあります。
ですから、これまでに少しでも頭痛で苦しんだ経験がある方や、習慣的に市販薬で頭痛に対処している方は、まずは頭痛外来を受診して、頭痛の種類を診断してもらい、それに適した治療を受けることが大切です。

オンライン診療の特徴

オンライン診療のメリット

オンライン診療の大きなメリットは、通院のための時間的負担を軽減でき、距離的負担をなくせることです。特に鉄道の駅から距離があり、主要な通院手段が車やバスである遠方の医療機関に通院している患者さんにとっては、その負担を軽減できることのメリットは非常に大きなものです。実際、これまでは医療機関が遠いために痛くても治療を受けずに市販薬で我慢していたという方が、頭痛外来で治療を受け「オンライン診療ならばずっと通院できる」と受診を継続されるケースも増えています。
なお、時間的・距離的な負担を感じながら通院されている方のなかには、通院に限界を感じたときに治療自体も諦めてしまう方がいます。そうなる前に、オンライン診療への移行を積極的に検討してほしいと思います。

初診は原則対面診療で

オンライン診療を希望して受診される場合でも、初診は原則対面の受診が望ましいです。なぜなら、脳出血、くも膜下出血、脳腫瘍、感染症など、脳や体に何らかの問題があることで引き起こされる二次性頭痛とよばれる頭痛が潜んでいる可能性があるからです。脳出血を起こすと重大な症状が起きると考えている方も多いと思いますが、歩いて受診された方に脳出血が見つかる場合もありますので、初診時には対面で適切に診察や検査を受け二次性頭痛を除外することが必要です。

なお、既に他の医療機関で二次性頭痛が除外されて間もない場合や、診断がついていて治療中だけどその医療機関が遠方で通院に負担を感じている場合などであれば、対面診療とオンライン診療の両方を行っている頭痛外来に相談してみるとよいかもしれません。初診からオンライン診療が可能なことがあります。ただし、そこで医療機関選びで重要なのはオンライン診療だけでなく、普段から対面診療をきちんと行っているかどうかがポイントになります。なぜなら、オンライン診療という手段ではなく頭痛をうまくコントロールすることを目的としているからです。利便性を求めて安易に専門医がいなくオンライン診療だけをうたっている医療機関から、とりあえず薬剤だけ処方してもらうようなことをすると、なかなか頭痛がよくならないなど適切な治療に繋がらないことが危惧されます。

オンライン診療に移行後の対面の受診について

オンライン診療を開始した後の通院方針は医療機関によって異なります。基本的には定期的な対面での受診が必要ですが、例えば自動車や公共バスといった来院手段が限られる医療機関への通院などで、対面の受診が難しい理由がある場合は、その頻度を減らせることもあります。ただし、それには症状に大きな変化がなく医師が頭痛をコントロールできる程度に安定していることと、必要に応じて直接来院できるか、あるいは連携している医療機関での検査が受けられるか、そして定期的に健診データや他の医療機関での検査結果を提供できるか、などの条件を満たし、医師が承諾した方だけが対象となります。

頭痛ダイアリーの活用

頭痛ダイアリーはオンライン診療であっても非常に重要な診察ツールです。1ヶ月分の頭痛の状態を1ページにまとめられるようになっているため、その場でカメラに掲げてみせるだけでも十分に情報を伝えることができます。そのため、頭痛ダイアリーを利用中の患者さんは、対面診療と同様に手元に準備して診察を受けましょう。
なお、事前に頭痛ダイアリーを写真にとって画像データを医師に送付する方法などもあります。どのような提示方法がよいかはケース・バイ・ケースであることから、医師と相談しておくとよいでしょう。

頭痛ダイアリーをみながらオンライン診療をうける女性

患者さんと医師の双方が信頼関係を構築する意識をもつことが大切

慢性頭痛の治療は長期に渡ることが多いため、治療の継続には患者さんと医師との間の信頼関係の構築が欠かせません。自宅にいるとつい気持ちが緩んでしまうことがあるかもしれませんが、オンライン診療はあくまで対面診療と同等の診療形態です。自宅などリラックスして受診できるというオンライン診療のメリットを享受しつつも、診察室で受診する時と同じように、お互いに信頼関係を深められるように努めることが大切です。

オンラインで受診する際に気をつけること

プライバシーを確保できる環境を整える

オンライン診療を利用する際にまず大切なことは、しっかりとプライバシーを確保できる環境を整えることです。オンライン診療は居宅で行うことが基本です。自宅でオンライン診療を受ける場合は、たとえ家族であってもサポートが必要な場合を除き不要な同席は避け、診察内容を聞かれないように注意してください。もし同席を希望される方がいらっしゃる場合は、対面での受診と同様に事前に医師の同意を得る必要があります。不適切な例としては、喫茶店でWi-Fiを利用して受診、歩きスマホで受診などがあります。プライバシーだけでなく、歩きスマホや自動車の運転中での受診は危険を伴うため、絶対に行ってはいけません。

事前に通信環境の確認を行う

オンライン診療では、通信が不安定なせいで十分な診察が行えなくなることを避けるため、特にはじめての方は、必ず受診前に余裕をもって待機し、オンライン診療に利用するスマートフォンやタブレットの通信環境の確認を行っておくようにしてください。

薬の受け取り方法を確認しておく

受診後の薬の受け取り方法も医療機関により異なります。まず処方箋については、ご自宅など確実に受け取れる住所まで送ってもらう方法、電子処方箋を利用する方法(現時点ではまだ一部でのみ利用可能)などが代表的です。
次に実際の薬の受け取りに関しては、任意の薬局で直接受け取る方法と、オンライン服薬指導を受けた後にご自宅までお薬を送ってもらう方法があります。前者ではもし薬の在庫がない場合、取り寄せにより時間がかかることがありますので、いずれの方法でも、前回処方された薬が無くなるよりも少し早めのタイミングで受診するように気をつけましょう。

さいごに〜初診時に対面の受診が難しい場合も、まずは相談を〜

これまでに医療機関で頭痛を診てもらったことがない場合は、インターネットでまず「頭痛外来」と検索して、頭痛を専門的に診ている医療機関を探し、次に「頭痛学会 頭痛専門医」と検索してください。見つけた医療機関において頭痛専門医が定期的に診療していることを確認して受診してほしいと思います。ご自宅の近所では頭痛外来を見かけたことがないかもしれませんが、都道府県単位でみれば必ず見つかるはずです。

また、もしもそのような医療機関への受診が距離的に難しい場合、オンライン診療に対応していることもありますので、まずは電話で相談してみることをおすすめします。初診では原則として対面の受診が推奨されていますが、頭痛外来と居住地の医療機関が連携して治療にあたることによって、初診から頭痛外来にオンラインで受診が可能なこともあります。
私たち頭痛専門医は、患者さんの頭痛を治すことを最優先に考えていますので、諦めずにまずは気軽に相談していただければと思います。

<参考>
  1. 1)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.113-114.