総監修:
社会医療法人 寿会 富永病院 副院長 (脳神経内科部長・頭痛センター長)/ 富永クリニック 院長
竹島 多賀夫先生

頭痛のオンライン診療〜働き盛りの方の継続受診をサポート〜

監修:
品川ストリングスクリニック 院長
山王 直子 先生

2024年3月作成

はじめに

頭痛を病院で診てもらいたいのに、何度も通う時間がない、病院に行くのが面倒、といった理由でなかなか受診に踏み切れない方もいらっしゃると思います。実は2020年4月から頭痛のオンライン診療が保険で受けられることをご存知でしょうか。
そこで、まだオンライン診療を受けたことがない方に向けて、オンライン診療のメリットや受診の際に気をつけることなどを解説します。

痛くないときこそ医療機関へ

「たかが頭痛」、「頭痛くらいで病院に行くなんて大げさでは」と考えて医療機関を受診しない方は多いです。しかし、頭痛にはさまざまな原因があり、特に脳腫瘍や脳血管障害など、脳や体に何らかの問題があることで引き起こされる二次性頭痛とよばれる頭痛だった場合、放置すると命に関わることがありますので、そのような危険な頭痛を除外するためにも、一度病院で診てもらうことが大切です。

一方、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などの頭痛そのものが病気である一次性頭痛の患者さんは、頭が痛いときは辛くて寝込んでしまうものの、すでに何度もくり返し頭痛を経験しているために、いまさら病院に行くほどではないと考えてしまっているかもしれません。しかし、頭痛は自分が思っている以上に仕事や生活の生産性を低下させている可能性があり、会社や学校を休むことは人間関係にも悪影響を及ぼすことがあります。ですから、一度でも普段通りに動けなかったり、頭痛のせいで会社や学校を休んでしまったりした経験がある方は、医療機関を受診して頭痛のタイプを診断してもらい、症状にあった治療を受けることが大切です。治療を受けた患者さんのなかには、頭痛が解消されたことで、資格の取得や運動など、今まで諦めていたことができるようになり、人生に前向きに取り組めるようになったと感じる方が多くいます。

痛みがないときに受診することに気が引けてしまう方もいるかもしれませんが、痛みがひどいと自分の症状をしっかり医師に説明できない場合がありますので、むしろ痛みが治まっているときこそ医療機関を受診してほしいと思います。

オンライン診療の特徴

オンライン診療のメリット

片頭痛を含む一次性頭痛は、特に働き盛りで忙しい年代の方に多くみられる病気です( 性別や年齢と頭痛の関係 )。そのため、たとえ医療機関を受診することの重要性を理解していたとしても、受診のハードルが高くなりがちです。また、育児や介護のために家を離れられず、受診を諦めてしまっている方も多いと思われますが、このような方々にとってもオンライン診療は大きなメリットがあります。受診のための外出を減らし、移動にかかる時間や交通費の節約にもつながります。また、転勤などで引っ越す場合でも、かかりつけの医療機関に継続して受診できるメリットもあります。

ただし、オンライン診療では触診や聴診、血液検査ができないため、医師向けに頭痛診療の基本方針を示した「頭痛の診療ガイドライン」でも、初診は必ず対面で行い、本人確認や危険な頭痛の検査などを行ってから、オンライン診療に移行することが推奨されています1)

オンライン診療の対象となる頭痛

繰り返しになりますが、オンライン診療は検査ができないため、先に述べた二次性頭痛の場合は原則として対象になりません。初診の対面診療で片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛と診断され、かつ病状が安定していると判断された方や、しっかり医師や薬剤師の指示に従って薬を使用できると判断された方、 薬剤の使用過多による頭痛 で適切な間隔での受診が必要であると判断された方などが、オンライン診療の対象になります。いずれにしてもオンライン診療は患者さんの希望だけでは開始できず、医師による判断が必要です。
オンライン診療開始後の通院方針は病院によって異なりますが、例えば3回に1回は対面で受診する、あるいは頭痛の回数が増えたり、痛みが強くなったり、いつもとは違う変化があった場合には、回数にかかわらず対面で受診するなど、定期的に対面でも診てもらうことが大切です。

頭痛ダイアリーの活用

頭痛ダイアリー はオンライン診療であっても非常に有効な診察ツールです。1ヶ月分の頭痛の状態を1ページにまとめられるようになっているため、その場でカメラに掲げてみせるだけでも十分に情報を伝えることができます。そのため、頭痛ダイアリーを利用中の患者さんは、対面診療と同様に手元に準備して診察を受けましょう。

オンライン診療に必要な準備

専用アプリを準備する

オンライン診療を開始するには、専用のアプリをインストールしたスマートフォンやタブレット、パソコンを患者さん自身で用意する必要があります。現在、複数のオンライン診療用アプリがありますが、医療機関ごとに使用できるアプリが異なる点に注意しましょう。

アプリをダウンロードしたオンライン診療をうける女性

事前に専用アプリの動作と通信環境の確認を行う

特にはじめてオンライン診療を行う方では、受診直前になってはじめてアプリを立ち上げたために、操作方法がわからず受診できなかったというケースや、通信が不安定なせいで十分な診察が行えなかったケースがよくありますので、必ず受診前日までに、オンライン診療を行うのと同じ環境下で、動作と通信環境の確認を行っておくようにしてください。

薬の受け取り方法を確認しておく

受診後の薬の受け取り方法も医療機関により異なります。自分が薬を受け取りたい薬局をアプリ上で選ぶシステムでは、いざ選ぶ段階になってはじめて希望する薬局がシステムの対象外であったことに気づく場合もありますので、その点も事前に確認しておきましょう。また、システムによっては郵送に対応している場合もあります。
なお、受け取りに対応している薬局であっても、薬の在庫がなく、取り寄せでの対応になる場合がありますので、できれば薬を取りに行く前に、準備ができているか薬局に確認しておくとよいでしょう。

その他、費用について(2024年1月時点)

オンライン診療ではシステム利用料が必要ですが、総額としては対面診療とほぼ同等となることが多いです。

さいごに〜手軽さだけを求めての安易な利用は控える〜

頭痛で医療機関を受診することは、まだまだ一般的なことではなく、片頭痛患者さんのなかで実際に医療機関を受診したことがある方の割合は3割程度との調査結果もあります2)。今後、オンライン診療が普及し、このような状況が改善していけば、患者さんのみならず、日本経済にも良い影響をもたらすかもしれません。
ただし、オンライン診療は、本来は自分の頭痛や体のメンテナンスのことを真剣に考えている方が利用するべきものです。手軽さだけを求めて安易な気持ちで利用していると、十分な治療の恩恵を受けられない可能性がありますので注意しましょう。
また、頭痛治療は、2021年に新薬である予防薬が発売され、大きな変化がありましたので、それ以前に医療機関を受診したものの良くならずに治療を諦めてしまった方がいましたら、ぜひもう一度受診を検討してみてください。

<参考>
  1. 1)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.71-77.
  2. 2)Sakai F, Igarashi H : Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997;17:15-22.