総監修:
社会医療法人 寿会 富永病院 副院長 (脳神経内科部長・頭痛センター長)/ 富永クリニック 院長
竹島 多賀夫先生

片頭痛と女性との関係

監修:
社会医療法人 愛仁会 千船病院 産婦人科(女性科)
主任部長 稲垣 美恵子 先生

2020年2月作成

女性に多い片頭痛。頭の片側または両側のこめかみ付近がズキンズキンと痛み、月に1~2度、多いと週に1~2度起こります。頭痛が起こると仕事や家事の効率が下がったり、出かける予定をキャンセルすることになったり・・・日常生活に支障をきたすようなこの頭痛は、なぜ男性よりも女性に多いのでしょうか?
今回は、片頭痛を引き起こす女性特有の原因、女性との関係について解説します。

片頭痛が女性に多い理由

日本国民の3人に1人が一次性頭痛に悩んでいるといわれています。一次性頭痛とは、他の病気が原因で起こる頭痛ではなく、頭が痛いことそのものが病気である頭痛のことをいいます。代表的な一次性頭痛の1つ「片頭痛」は女性に多く、日本全国調査によると、全年齢層での片頭痛の有病率は男性3.6%に対し、女性12.9%と報告されています。この数字から、男性の3.6倍の女性が片頭痛で悩み、苦しんでいることが分かります。
特に20〜40代の女性に多く、30代で20%と最も有病率が高く、40代でも18%にも及んでいます。1)

では、なぜ片頭痛は女性に多いのでしょうか?
女性に片頭痛をもたらす主な要因として、以下が考えられます。

  1. 1.月経前後月経や排卵、更年期などの「女性ホルモンの増減」
  2. 2.片頭痛は女性に遺伝しやすいとされる「遺伝的素因」
  3. 3.男性より女性の方が周囲に痛みを訴えやすい「文化的要素」

とりわけ30〜40代の女性に多く発症する理由としては、この時期に妊娠や出産といった女性ホルモン量が変動するライフイベントを迎えがちであること、仕事と子育て、さらには介護も含め多忙な年代でもあり社会的ストレスがかかること、更年期の入り口に差し掛かることなどが考えられます。

女性のライフステージイメージ
女性のライフステージ

女性ホルモンと片頭痛の関係

月経に関連する片頭痛の特徴

近年では、女性ホルモンと片頭痛には深い関係があると考えられています。実際、生理が始まる数日前や生理中に頭痛症状を訴える女性は多く、いずれも月経周期において女性ホルモンが低下する時期にあたります。
女性ホルモンには「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と「黄体ホルモン(プロゲステロン)」の2つがあり、これらのホルモンの分泌量がおよそ1ヶ月で増えたり減ったりし、月経を起こします。2つのホルモンのうち、特にエストロゲンが片頭痛の発現に関係すると考えられています。
エストロゲンは前回の生理が終わると、排卵に向けて増え、排卵時に急激に減ります。その後また増えて次の生理に向けて減少するという周期を繰り返します。エストロゲンの分泌が急激に減少するとき、脳内のセロトニンやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)と呼ばれる神経伝達物質のバランスが変化します。このことにより、神経に炎症が起こったり頭の血管が拡張したりすることで、頭痛が起きると考えられています。
この月経によって引き起こされた片頭痛を「月経時片頭痛」と呼んでいます。

月経時片頭痛には以下のような特徴があります。

  • 前兆はないことが多い
  • 頭痛発作の持続時間が長い
  • 吐き気などの症状が強く、重症化しやすい
  • 一旦よくなってもまた再発しやすい
  • 痛み止めが効きにくい

女性ホルモンの変動により、月経の前より様々な不快な症状「月経前症候群(PMS)」があらわれることがあります。イライラ・眠気・不安などの精神的症状、腹痛・胸の張り・腰痛・頭痛などの身体的症状が月経前にみられます。2)
PMSによる頭痛は、月経前から月経中に起こりやすいことや年齢など片頭痛と類似点があるため、「この頭痛はPMSによる症状だろう」ととらえられてしまうことがありますが、実は片頭痛を発症している可能性も考えられます。頭痛をきちんと見極め、対処することが大切です。

ご自身の頭痛のタイプを見極めるのに、頭痛ダイアリーを活用しましょう。頭痛の頻度やタイミング、時期や痛みの程度、痛む場所などを記入すると、医師に自分の症状を伝えやすく、対処の参考にすることもできます。
PMSの専門は婦人科ですが、頭痛で困っている場合は頭痛外来など頭痛専門医も受診することをおすすめします。

低用量経口避妊薬(低用量ピル・OC)と片頭痛3)

女性の中には、ピルを服用されている方もいらっしゃいます。ピルには女性ホルモンが含まれているので、避妊目的以外に生理痛の症状緩和など治療に使用されることもありますが、副作用として頭痛が報告されています。
前兆のある片頭痛をもつ方にエストロゲンを含む経口避妊薬は、血栓症のリスクが高まるため、原則として禁忌(使用禁止)です。前兆のない片頭痛のかたは禁忌ではなく、ほかの血栓症リスクに注意すれば使用可能です。医療機関を受診する際に必ず片頭痛があることをお伝えください。

妊娠中や授乳中の頭痛への対策

一般的に妊娠中、特に体調が安定する中期・後期には女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が安定して高くなるため「片頭痛が軽減した」と感じる人は多いようです。妊娠が引き金となって頭痛が起きるケースもありますが、その場合は片頭痛ではなく、妊娠高血圧症候群など別の疾患の疑いがあることも・・・。もともと頭痛持ちでない人が妊娠を機に急に頭痛が起きるようになったときや、今までの頭痛とは異なる痛みを感じたときには、必ずすぐに受診するようにしてください。妊娠中や授乳中であっても服用できる薬もありますので、産婦人科や頭痛の専門医に相談しましょう。

女性ホルモンの影響を中心に片頭痛と女性の関係をご紹介しました。「頭痛はいつものことだから」とあきらめず、ご自身に合った頭痛の対策をしましょう。
そのためにはまず、頭痛のタイプを知ることが大切です。片頭痛は、頭痛が起こるきっかけ(誘発因子)を知り、生活習慣を改善することで頭痛をコントロールしやすくなり、頭痛がもたらす不安や不快感が軽減され、【Quality Of Life(QOL)の向上】にもつながることでしょう。

<参考>
  1. 1)Sakai F, Igarashi H : Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997;17:15-22.
  2. 2)日本産科婦人科学会, 産科・婦人科の病気<月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)>, (http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13)
  3. 3)慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会 : 慢性頭痛の診療ガイドライン2013, 医学書院, 2013.