総監修:
社会医療法人 寿会 富永病院 副院長 (脳神経内科部長・頭痛センター長)/ 富永クリニック 院長
竹島 多賀夫先生

医師に聞く!頭痛ダイアリー活用術①

頭痛の症状は人それぞれ異なるもの。あなたを悩ませている頭痛の症状はどのようなものですか?
毎日のように起こる頭痛、周期的に起こる頭痛。ズキンズキンと脈打つように痛くなる頭痛、締め付けられるような痛みの頭痛。頭の片側だけが痛くなる頭痛、後頭部や首筋が重く感じる頭痛、目の奥が激しく痛む頭痛。
頭痛の起こる「頻度」「痛み方」「痛む場所」等は人によって異なります。
ご自身にとっていちばん良い治療を受けるためには、「頭痛ダイアリー」も活用して頭痛の症状を整理し、医師へ正確に伝えることが大切です。

そこで今回、多様な頭痛症状を訴える患者さんに寄り添い、長年、頭痛診療に取り組まれてきた頭痛専門医・橋本洋一郎先生に、「頭痛ダイアリーの活用方法」を教えていただきました。

熊本市民病院 脳神経内科 首席診療部長
橋本 洋一郎 先生

橋本 洋一郎 先生

先生のもとには日々どのような患者さんがいらっしゃいますか?

「頭痛」には片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛など慢性的に起こる頭痛や、脳や頭部の疾患によって症状があらわれる頭痛、精神疾患に伴う頭痛など、さまざまな種類があります。
また、複数の頭痛を合併しており、頭痛のタイプや原因を特定しづらい方もいらっしゃいます。例えば、片頭痛の患者さんが痛み止めを必要以上に飲むようになり、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を起こしてしまっていたりすることもあります。

私のもとへはこうした難治例、すなわち診断しづらいがゆえに治療しづらいとされる患者さんがたくさんいらっしゃいます。これまでにさまざまなことを試したものの頭痛が改善されず、かかりつけ医からの紹介状を持って受診される方が多いですね。

頭痛タイプや原因を特定しづらい患者さんも含め、さまざまな症状を訴える患者さんに対して、先生はどのように診療されていますか?

患者さんと話をして、その人の頭痛の原因やタイプをじっくりと紐解いていくようにしています。初診時の問診を大切にしています。「台風の時、雨の日、生理の日などに頭痛は起こっていませんか」などと問いかけると患者さんも自分の頭痛をイメージしやすくなります。

「いつ」「どのように」頭痛が起こるのかしっかりと話を聞き、頭痛が起こる時間帯や徴候、頭痛の原因を探ります。その人の頭痛のタイプをイメージし、私が感じたイメージを患者さんにも伝えて、理解してもらう。そして、治療方針を伝えます。先生の言うとおりにして頭痛が軽減した、そのような成功体験を積み重ねていきながら、少しずつ患者さんの頭痛への不安を取り除いていきます。そんな患者さんの様子を見て、私も「楽になってよかったですね」と一緒に喜んでいます。

頭痛の治療において、患者さんとのコミュニケーションは重要ですね!

頭痛は誰もが一度は経験したことのある症状なのに、そのつらさ、苦しさはなかなか理解されません。生活や仕事に支障をきたすほど苦しんでいるのに「頭痛で休みます」なんて言うと、周囲からは冷ややかな目で見られることも・・・。「病は気から」「頭痛ぐらいで」なんて根性論で押し切られることもあるので、特に男性で頭痛持ちの方は休むに休めないという話も聞きます。

このように長年頭痛に苦しみながらも、ずっと一人で悩みを抱えてきた方にとって、自分のつらさ、苦しさを理解してくれる医師の存在は大きいもの。治療が奏功し、症状も軽減した際、医師も一緒になって「楽になってよかった」と喜んでくれたら、なおさら心強いことでしょう。「頭痛はもう怖くない」そんな風に患者さんの中にも自信が芽生えていきますよね。

とはいえ、医師も患者さんも、全員がコミュニケーション上手だとは限りません。医師に自分の頭痛の症状をうまく伝えられないときに役に立つのが「頭痛ダイアリー」ですね。

先生は「頭痛ダイアリー」を診療でどのように活用されていますか?

患者さんが自らの頭痛を客観的に捉えるうえで頭痛ダイアリーは大いに役立つと感じています。日記のように毎日記入することで、自身の頭痛のタイミングを把握し、服用した薬などを確認することができます。自由記載のコメント欄には吐き気や前兆の有無、家事や仕事への影響なども書き込むことで、自分の頭痛の誘因など新たな気づきを得る場合もあります。

ダイアリー

医師に症状をうまく伝えられるか心配だと感じる方にも頭痛ダイアリーを活用することをお勧めします。頭痛ダイアリーを見れば、頭痛が起こる頻度やタイミング、痛みの程度や痛む場所が把握できるため、医師は頭痛のタイプや原因を絞り込むときに参考にすることができます。治療方針も立てやすくなるでしょう。

治療中も頭痛ダイアリーをつけておくと「頭痛の回数が減ってきた」「痛みの程度が軽くなってきた」などの実感も得やすくなります。頭痛が楽になることでストレスが減り、さらに頭痛症状が和らぐといった良い循環も期待できます。

最後に、頭痛でお悩みの方へメッセージをお願いいたします。

私の病院がある熊本では、かかりつけ医や薬剤師などと連携し、頭痛を訴える患者さんを地域で診ています。患者さんは普段はかかりつけ医に診てもらい、何か気になることがあればかかりつけ医から頭痛専門医に相談する、紹介状を持って患者さんが専門医を受診する、そのような連携体制をとっています。私たち専門医は診察したら治療方針をかかりつけ医と共有し、患者さんはまたかかりつけ医と一緒に治療に取り組んでいます。
専門医だけではなく、患者さんに身近なかかりつけ医とともに、頭痛治療に取り組んでいきたいと考えています。

「たかが頭痛」と思わないでください。頭痛には、生命を脅かすような危険な頭痛もあります。日常生活に支障をきたす頭痛を一人で抱え込んだり我慢したりせずに、かかりつけ医や頭痛外来のある医療機関に足を運び、相談するようにしてくださいね。

取材日:2019年8月22日 取材場所:熊本市民病院内