医師に聞く!頭痛ダイアリー活用術⑥
片頭痛は光・音・においなど周囲の環境の影響を受けやすいことが知られています1)。今回お話を伺った辰元宗人先生は、その点に着目され、室内の照明光など周囲の環境から受ける刺激を調節することで片頭痛の緩和を目指す研究に長年取り組まれています。そこで、研究を始められたきっかけや頭痛ダイアリーの活用方法などについてお話を伺いました。
獨協医科大学病院 頭痛センター/医療安全推進センター 教授
辰元 宗人 先生
獨協医科大学病院の頭痛外来について教えてください
獨協医科大学病院は、森や山など自然豊かな環境に囲まれた栃木県県央にある壬生町に位置しています。病床数は1,195床と日本国内でも有数の規模の病院です。それに比例して外来患者数も多く、1日平均約2,000名(2021年度)の患者さんが受診されます。また、ドクターヘリを有しており、栃木県全域の救急医療を担っています。
獨協医科大学病院脳神経内科の頭痛外来は、1998年に日本国内の大学病院では初の頭痛専門外来として、当時神経内科教授(現獨協医科大学副学長)の平田幸一先生により開設されました。当院は大学病院ですので近隣病院や診療所からの紹介患者さんを主に診ていますが、地域の頭痛診療の中核病院として、比較的軽度の方から治療困難な方まで、幅広い症状の頭痛患者さんを診ています。
先生が頭痛と環境要因について研究をはじめたきっかけを教えてください
私は以前、脳神経内科に所属していましたので、頭痛で受診された患者さんを診る機会自体はよくありました。そのなかで2008年のある日、「片頭痛発作が起きると自宅の天井の照明がまぶしくてつらい」と話される患者さんに出会いました。もともと私は専門雑誌(エル・デコ)を定期購読するほどインテリアに興味をもっていたこともあって、ふと思い立って患者さんが自宅で使用されている照明の種類についてお聞きしたところ、白色蛍光灯のシーリングライトを使用されていることがわかりました。片頭痛患者さんには白い蛍光灯を苦手とする傾向があるという海外の研究結果がありますので、電球色の蛍光灯への変更を提案しました。そして、その患者さんが次に受診された際に再び話を伺ってみると、家中の照明を電球色に変えてみたところ症状がとても良くなったというのです。このことをきっかけにして、照明と片頭痛の関係に興味をもって研究をはじめるようになり、その後、音やにおいなどの他の環境要因にも研究を広げていきました。
先生は頭痛ダイアリーをどのように活用されているのですか?
頭痛ダイアリーは頭痛の正確な診断に役立つツールです。例えば、片頭痛と緊張型頭痛が混在する複雑な頭痛の場合でも、頭痛ダイアリーを活用することで、「いつ」「何の」頭痛が起きていたのかをしっかり判別できます。また、頭痛ダイアリーの記入を通じて、「今日はズキズキ痛むから片頭痛だ」「今日は頭が重い感じがするから緊張型頭痛だ」のように、患者さんが自らの頭痛について意識できるようになる点も大きなメリットです。
患者さんには、天候、生理、ストレスを伴う活動など、頭痛の原因となった可能性が高い出来事は必ず頭痛ダイアリーに記入してもらうようにお願いしています。これらの記録と治療経過を比べていくことで、「天候と生理が原因の頭痛はまだ残っているが、ストレスによる頭痛は抑えられている」のように、頭痛の原因ごとに治療の効果を確認できるようになるからです。
また、限られた診察時間のなかでは、患者さんの日常生活に踏み込んだ質問をすることはなかなか難しいです。一方、頭痛ダイアリーには趣味の活動やお子さんのことなど、プライベートな出来事について記入してあることも多いので、それらが会話のきっかけとなり、お互いの信頼関係を深めていくことにも役立っていると感じます。
頭痛ダイアリーを使って、どのように頭痛の原因を探っていくのですか?
患者さんに頭痛ダイアリーを見せていただくと、屋外でのスポーツの後やお子さんの部活動の応援の後、遊園地に遊びに行った後などに頭痛が起きたとの記載を見かけることがあります。この場合は、屋外で強い太陽光を浴びたことが片頭痛の原因となっている可能性が高いと考えられます。
また、頭痛ダイアリーの記載から週末になると頭痛の頻度が高くなることがわかった方には、普段の睡眠状況をお聞きするようにしています。平日が忙しいので休日に寝溜めをする方がよくいますが、平日と休日で起床時間が2時間以上ずれているような場合では、それが頭痛の原因となっている可能性があります。これは学生など若い患者さんにも多く、不規則な生活リズムを整えるだけで頭痛が治まることもよく経験します。
最後に、頭痛でお悩みの方へメッセージをお願いいたします。
繰り返す頭痛は病院を受診して薬で治療するしかない、というイメージを持っている方も多いと思いますが、生活リズムの乱れが原因の頭痛のように、実は適切なセルフケアで症状を軽減できる頭痛も存在します。そのため、頭痛が悪化して病院を受診せざるを得なくなる前に、まずはご自身の頭痛とよく向き合ってみて、生活習慣の乱れが関係していそうであれば、それを整えていくことを意識していただきたいと思います。
また私は、そのような病院受診まで至っていない頭痛患者さんのために、頭痛ダイアリーとセルフケア支援を組み合わせたようなアプリを現在企業と開発を進めています。リリースはまだ先ですが、少しでも早く頭痛患者さんにお届けできるよう努力していきたいと思います。
取材日:2022年8月8日(オンラインにて実施)