総監修:
社会医療法人 寿会 富永病院 副院長 (脳神経内科部長・頭痛センター長)/ 富永クリニック 院長
竹島 多賀夫先生

医師に聞く!頭痛ダイアリー活用術③

頭痛オンラインではこれまで頭痛は治る・防ぐことができる病気だとご紹介してきました。そのためには、ご自身の頭痛がどのような頭痛なのか見極め、適切に対処することが大切です。
頭痛ダイアリー活用術では、これまで病院・クリニックの頭痛専門医の先生に、ダイアリーの重要性についてお話を伺ってきました。今回は、全国でも数少ない頭痛センターがある富永病院で副センター長を務める團野大介先生にダイアリーの重要性について教えていただきました。頭痛センター?ひどい頭痛持ちの方が行くところ?とあまり馴染みがないかもしれません。頭痛センターってどんな役割の病院なのか、そこでの頭痛の治療も含めお話を伺いました。

社会医療法人 寿会 富永病院 脳神経内科 頭痛センター
副センター長 團野 大介 先生

團野 大介 先生

富永病院「頭痛センター」は、地域でどのような役割をもつ病院なのですか?

頭痛は、多くの人が悩まされる疾病の1つです。日常生活へ与える影響が大きいにも関わらず、「頭痛は治療する病」だという認識や頭痛専門の医師がいることの認知度はまだまだ低いのが現状です。日本では2005年に日本頭痛学会による頭痛専門医制度がスタートし、頭痛専門医による診療が全国で行われています。

そのような状況のなか、当院の頭痛センターは頭痛専門医が複数名在席し、地域の頭痛診療ネットワークの中核として、頭痛の診療・支援を行っています。頭痛外来で患者さんの診断や治療も行っていますが、他の診療科の医師からの相談や紹介などの対応のほか、「頭痛教室」を開催して一般生活者に向けた頭痛の啓発活動、医療関係者向けには頭痛医学の教育の場の提供など、頭痛の研究機関・教育施設としての役割も担っています。

どのような症状を訴える方が多く受診されていますか?

脳腫瘍やくも膜下出血のような命に関わる危険な頭痛ではない「一次性頭痛」や「神経痛」の症状を訴える方が大半です。

一次性頭痛について詳しくはこちら

過去2年でカルテベースで1900人ほどの患者さんが私の外来を受診されましたが、その8割以上は片頭痛です。その中には、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を合併している方もいます。緊張型頭痛や群発頭痛の症状を訴える方、後頭部にピリピリ・チクチクとした痛みを感じる後頭神経痛を訴える方も来られますが、片頭痛ほど多くありません。

さまざまな症状を訴える患者さんに対し、頭痛センターではどのような治療を行っているのでしょうか?

頭痛は目で見えない病気なので、まずは「どのような症状が生じているのか」を問診で確認します。そして神経学的診察の観点から診察を行い、MRIを含む画像診断や採血などで「二次性頭痛」の可能性を除外し、正確な頭痛診断をつけます。

二次性頭痛について詳しくはこちら

その後、患者さんの生活スタイルや健康状態など背景を確認し、頭痛ダイアリーを用いて頭痛の状態を把握し、患者さんの状態に応じた薬を処方していきます。

患者さんの症状によっては、入院して治療を行う場合もあります。

たとえば薬物乱用頭痛では頭痛の引き金となっている薬剤の服用を中止し、痛みをコントロールする治療を入院で行うことがあります。ほかにも頭痛をコントロールできずに慢性的に強い頭痛が起こっている場合、正確な診断のために、さらなる精査が必要な頭痛の場合にも入院治療を促します。

いずれも入院中は頭痛ダイアリーを記入し、薬を調整しながら患者さんへの頭痛教育や看護師により日々の状態確認を行い、治療を行います。必要に応じて、理学療法士によるリハビリや、臨床心理士が介入したり、さまざまな医療関係者との複合的なアプローチで治療を行ったりするケースもあります。

地域の頭痛診療ネットワークの中核として、地域のクリニックとはどのように連携しているのでしょうか?

かかりつけ医からの患者さんの紹介の場合には、かかりつけ医からの紹介状、MRIなどの画像データ等を確認し、これまでの治療経過を把握します。かかりつけ医から患者さんがつけていた頭痛ダイアリーも同封していただいたり、患者さんが来院時に持参いただいたりすることがあり、その場合はより一層スムーズに治療方針を決定できるので助かりますね。

一方で、当院からかかりつけ医に逆紹介する場合や、患者さんの引越し等で他の医療機関に紹介する場合には、治療を始めた頃と直近の頭痛ダイアリーのコピーを同封するように努めています。

さらに患者さんにも、頭痛ダイアリーの記録の継続を勧め、紹介先への受診の際には頭痛ダイアリーを持参するように説明しています。頭痛ダイアリーは病状の把握、医師と患者さんとのコミュニケーションに大いに役立つものです。治療方針の迅速な決定に役立つと考えています。

患者さんの情報がつまった頭痛ダイアリーですが、「こんなことが記録されていて役に立った」という内容はありますか?

頭痛ダイアリーは、私たち医師に多くの情報をもたらしてくれます。そこに記載されたちょっとした情報がきっかけとなり、頭痛の診断に結びつくケースがあります。

たとえば、他の病気の症状や他の医療機関の受診記録などがそうです。鼻炎など鼻の病気は頭痛症状があらわれたり、片頭痛を悪化させたりすることがあります。患者さんが頭痛ダイアリーに「花粉症で耳鼻科を受診した」と記載していて、その前後から頭痛が続いていたケースでは頭痛と鼻炎症状との因果関係が分かり、鑑別に大変役に立ったことがありました。

ダイアリー

ほかにも、排尿や排便、入浴などの記載から頭痛発作のきっかけに気付くことや、会社で部署の異動があったなどの生活環境の変化が頭痛のきっかけ・悪化の要因として気付くこともあります。頭痛にまつわることだけではなく、気付いたことはどんなことでも頭痛ダイアリーに記載すると良いでしょう。

最後に、頭痛で悩んでいる方へメッセージをお願いします。

頭痛は、比較的短期間で改善するケースもあれば、何年も持続し日常生活や社会生活に大きな支障をきたすものもあります。頭痛が続くと、これまでとの状態と比較して苛立ちやストレスを感じやすく、ネガティブな気持ちになりやすいもの。そんなときはいろんなことを「あれができなかった、これもできなかった」と減点法で考えるのではなく、今日は頭痛が軽くて学校に行けたなど「これはできた」と加点法でとらえてほしいと思います。何年も続く頭痛でも、このようなポジティブなとらえ方を続けることで、ある時急に良くなってくることもよく経験します。焦らずにじっくりと自分でできるベストな対応を継続することが、慢性頭痛から抜け出す良い方法です。

また、頭痛症状を抱えていると、じっとしていたい、動きたくないと考えがちですが、運動不足は体力不足を招き、頭痛が悪化するという“悪循環”を生みます。頭痛の症状がないときに、1日15分程度で良いので、無理のない範囲でリラックスしてウォーキングを楽しむことを生活習慣に取り入れてみてはいかがでしょうか。また、頭痛体操のようなストレッチなども継続することで効果が期待できます。

頭痛は、薬でねじ伏せるタイプの病気でなく、体調や生活環境を整え、痛みとうまく付き合いながら治療していくタイプの病気です。頭痛でお悩みの方は、当院をはじめとする頭痛外来やかかりつけの医療機関を受診し、医師と相談しながらじっくりと治療してください。

取材日:2020年9月3日 取材場所:富永病院内