総監修:
社会医療法人 寿会 富永病院 副院長 (脳神経内科部長・頭痛センター長)/ 富永クリニック 院長
竹島 多賀夫先生

医師に聞く!頭痛ダイアリー活用術②

「頭痛は治らない」と思いこみ、症状に苦しみながらも、まだ「病院に行くほどではない」と放置していませんか?
頭痛は決して軽視すべき病気ではありません。「頭痛」といっても「起こる頻度」、「痛みの程度」、「痛む場所」は頭痛のタイプによって異なり、感じ方も人それぞれです。
頭痛には思わぬ病気が隠れている危険性もあります。
あなたを悩ませている頭痛は何なのか、そして適切な治療を受けるには、まず医師に自分の頭痛について正確に伝えることが重要です。そのときに役に立つサポートツールが「頭痛ダイアリー」です。

今回は、宮城県仙台市で頭痛専門クリニックを開業している頭痛専門医・松森保彦先生に頭痛ダイアリーの重要性、医師のダイアリー活用方法について教えていただきました。

仙台頭痛脳神経クリニック 院長
松森 保彦 先生

松森 保彦 先生

「仙台頭痛脳神経クリニック」について教えてください。

当院は2015年4月に頭痛診療を専門に行うクリニックとして開業しました。頭痛で悩んでいるけれどどの病院に行けば診てもらえるのか、何科を受診すれば良いのか分からない方や、頭痛で悩んでいる患者さんがいるけれどどの医療機関に紹介しようかと悩む他の診療科の先生に、ここは頭痛の診療を専門的に行っていますよと目印となるようにクリニック名に「頭痛」を取り入れました。

開業する以前から頭痛で悩む患者さんと向き合ってきて、頭痛に悩んでいても「病院やクリニックを受診する」ことは思いのほかハードルが高いと感じていました。たとえば片頭痛の場合、症状を訴える人が多い30~40代の女性は、仕事や家事・育児で忙しくしている人が多いです。病院をはじめ、多くの頭痛外来では予約が必要であったり、診療時間や曜日が限られたりしていたので、行きたいと思っても受診しづらい状況なのではと考えていました。

そうした状況を踏まえ、当院では予約なしで、具合が悪いときにすぐに受診できるようにして、患者さんにとって「受診しやすい敷居の低いクリニック」を目指しています。

開業して5年たちましたが、たまに頭痛は起こるが市販薬で症状が緩和するといった比較的軽症の方から、頭痛発作が起きるたびに吐き気や嘔吐をともない寝込んでしまう重症の方、他院からのご紹介者も含め、多くの方に来院いただいています。

さまざまな症状を訴える患者さんに対し、先生はどのように治療を行われるのでしょうか?

当院では頭痛症状のみを訴える患者さんが多く、麻痺などの他の自覚症状のない方が全体の約8割を占めます。まずはしっかりと患者さんの話を伺い、問診を行います。大丈夫だと思っていても危険な病気が隠れていることがあるため、必要に応じて脳の検査を行います。

検査で異常がなく、片頭痛と判断した場合、頭痛が起こる回数や、生活への支障などに応じて治療方針を立てます。
その際に活用しているのが、「頭痛ダイアリー」です。
頭痛の頻度や痛みの程度などを客観的に確認でき、患者さんの症状を把握する上で欠かせない“必須アイテム”として、当院ではすべての患者さんに頭痛ダイアリーを渡しています。

ダイアリー

もちろん頭痛でつらいときに、きっちりとダイアリーに記入することは困難です。頭痛ダイアリーへの記入が心理的な負担になっては本末転倒ですから、頭痛が何回起こり、薬を飲んだかどうかを記録するだけでも大丈夫。無理のない範囲でかまわないとお話ししています。余裕があれば、「夜勤明けで寝不足だった」「休日で寝だめした」「月経中」などその時の自分の状況も記載しておけば、日々の生活の中で何が頭痛の引き金(トリガー)なのかを見極めるのに役立ちます。たとえば「旦那さんの実家に帰省した」ときに頭痛が起こっていると気づいた方もいらっしゃいました。

頭痛ダイアリーをつけることで、自分が薬を使いすぎていることに気づくことも珍しくありません。

クリニックではどのタイミングで「頭痛ダイアリー」を確認されているのでしょうか?

当院では、再診の方には診察の待ち時間を利用して、女性の看護師がダイアリーを確認するようにしています。患者さんと一緒にダイアリーを見ながら、月経や強いストレスを感じたイベントなどの話を聞き、より深く頭痛の状況について振り返っていきます。片頭痛は女性の患者さんが多く、同性ということもあり、女性特有の悩みなども看護師に打ち明けてくれやすく、私も必要な情報を得ることができスムーズな診察につながっています。

頭痛ダイアリーには自由に記入できるスペースが設けられているので、頭痛を絵で表現している方や、ダイアリー部分にその日の天気をイラストで記録している方もいて、後から見たときに一目で分かるように工夫されている方もいらっしゃいます。

今年の新型コロナウイルス感染症の拡大は、「頭痛」にどんな影響を与えていますか?

患者さんを取り巻く環境、生活習慣に大きな変化が起こりました。ストレスが誘因となる頭痛の訴えが増えたように感じます。テレワークが増え、会社に出勤することが減り頭痛が軽くなった方もいれば、反対に頭痛の回数が増えた方もいます。子供の学校の臨時休校措置や長期間のステイホームによる生活の変化で頭痛が悪化した方もいて、ストレスの感じ方や頭痛への影響は実にさまざまです。

コロナ禍でオンライン診療のニーズがクローズアップされるようになりました。頭痛外来に限らず、病院に行きたくても行くことができない。そのような受診しづらい状況に鑑み、当院では再診の患者さんに対しては電話による診療で対応しました。

最後に、頭痛でお悩みの方へメッセージをお願いいたします。

まずは、自分の頭痛について知っておきましょう。片頭痛なのか、緊張型頭痛なのか、別の疾患によって頭痛を引き起こしているのかを知ることで、上手に対処できるようになります。
そして、頭痛は単なる「症状」ではなく「病気」であり、「治療できる病気」です。
頭痛で悩んでいても受診していない方、受診したいと思うけれどきっかけをつかめずにいる方は、ぜひ気軽に受診してください。通院することで、家族や上司・同僚など、周囲の方の頭痛への理解も深まり、今までよりも楽に過ごせるようになっていくと思います。

取材日:2020年8月25日(オンラインにて実施)