総監修:
社会医療法人 寿会 富永病院 副院長 (脳神経内科部長・頭痛センター長)
竹島 多賀夫先生

医師に聞く!頭痛ダイアリー活用術④

こころと頭痛には密接な関係があることがよく知られており、心理的なストレスがもともとあった頭痛を悪化させたり、こころの病気が頭痛を引き起こしたりすることがあります。
今回は、精神科専門医でありながら頭痛専門医資格もお持ちのこころと頭痛の専門家、東北医科薬科大学病院 精神科の山田和男先生に精神科医の視点からこころと頭痛の関係や頭痛ダイアリーの活用法についてお話を伺いました。

東北医科薬科大学病院 精神科
病院教授 山田 和男 先生

山田 和男 先生

精神科で診る頭痛について教えてください

精神科で診る頭痛は、こころの病気(精神疾患)が直接の原因となって起こる頭痛です。この精神疾患による頭痛の多くは、根本的な原因である精神疾患を治療することで治っていきます。片頭痛や緊張型頭痛のような頭痛そのものが病気である頭痛は、一般的に精神科で診ることはありません。
患者さんが頭痛を訴えることがある精神疾患はいくつか知られていますが、そのなかで最も代表的なものがうつ病です。とはいえ、うつ病になると患者さんは頭痛だけではなく、腰やお腹の痛み、不眠や食欲不振などの症状も同時に訴えることが多いため、頭痛はあくまで数多く出現する症状の1つという位置づけになります。そのため、頭痛だけに着目して治療を進めることはありません。このほか、パニック障害、統合失調症や妄想性障害(身体型)などの精神病性障害でも頭痛が起きることが知られていますが、これらにおける頭痛もうつ病と同様の対応になります。

一方で、一生のうちに一度でもうつ病になる日本人の割合(生涯有病率)は5.7%(17〜18人に1人)1)、片頭痛がある日本人の割合(年間有病率)は8.4%(11〜12人に1人)2)といわれており、どちらも比較的かかりやすい病気ですから、うつ病と片頭痛が共存する方(同時に病気になる方)も珍しくありません。また、片頭痛がある方がうつ病にかかると、片頭痛の発作頻度が高くなったり、痛みが強くなったりすることが知られています。

精神疾患と片頭痛の関係についてもう少し詳しく教えてください

片頭痛がある方はうつ病やパニック障害になりやすいことが知られており3)、うつ病、双極性障害、不安症、パニック障害、月経前不快気分障害(PMDD)などの精神疾患にかかっている方は、病気のない方と比べて片頭痛が共存しやすいことが知られています。4〜9)
また、以前私がパニック障害と片頭痛の関係性を調査した際、治療によってパニック障害が改善している方ほど、片頭痛の発作頻度も改善していることがわかりました。逆にいえば、片方の治療がうまくいっていない方ほど、もう片方の治療もうまくいっていなかったということですので、この調査により両方を同時に治療することの大切さが明らかになったのです。8)

先生は頭痛ダイアリーをどのように活用されているのですか?

精神疾患の症状として現れている頭痛に対しては、その原因である精神疾患の治療が中心になりますので頭痛ダイアリーは使用していません。一方で、精神疾患は片頭痛と共存しやすいため、片頭痛の治療目的で頭痛ダイアリーを活用しています。
基本的な活用法は精神疾患がない片頭痛患者さんの場合と変わらないのですが、精神疾患と片頭痛が共存している方では、 薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛) になりやすい傾向がありますので、頭痛ダイアリーはその早期発見に役立ちます。

また、頭痛ダイアリーを活用すると、頭痛と月経の関係をはっきり捉えることができますので、月経前不快気分障害(PMDD)※1と共存する月経時片頭痛※2の発見に役立つこともあります。PMDDの患者さんは、実に60〜70%の方に月経時片頭痛が共存している9)ことがわかっていますが、月経時片頭痛は月経痛と同時期に起こるため、それぞれの痛みが別々の原因で起きていることに気付いていない患者さんは意外に多いのです。

  • ※1月経前不快気分障害(PMDD):月経がはじまる7日〜2週間前になるごとに、気分の落ち込みやイライラ、極度の不安、情緒不安定、過食、過眠(睡眠過多)などが出現する精神疾患です。その症状はうつ病に匹敵し、対人関係をはじめとする社会生活に支障をきたすほど強いにもかかわらず、月経がはじまるとともにすべての症状が消失するのが特徴です。10)
  • ※2月経時片頭痛:毎回の月経開始日の前後2日以内に片頭痛発作が起きる病気です。

最後に、頭痛で悩んでいる方へメッセージをお願いします。

ここまでお話してきましたように、片頭痛があると特定の精神疾患になりやすく、同様に特定の精神疾患があると片頭痛になりやすいことがわかっています。また、精神疾患と片頭痛が共存する場合、どちらも同時に治療をすることで互いの病気の改善に良い影響を与える可能性がありますが、両方を同時に診ることができる医師の数は限られているのが現状です。そのため、例えば片頭痛で通院中に強い気分の落ち込みを感じるようになった方や、精神疾患で通院中に急に強い頭痛が定期的に起きるようになった方などは、精神科あるいは頭痛専門医の受診の必要性について、主治医に相談してみるとよいでしょう。

取材日:2021年7月15日 取材場所:ホテル仙台ガーデンパレス

<参考>
  1. 1)川上憲人:精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究:世界精神保健日本調査セカンド.厚生労働省厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)総合研究報告書,2016.
  2. 2)Sakai F, Igarashi H : Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997;17:15-22.
  3. 3)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, p51-52, 医学書院, 2021.
  4. 4)Kececi H, et al. : Co-morbidity of migraine and major depression in the Turkish population. Cephalalgia 2003;23:271-275.
  5. 5)Samaan Z, et al. : Migraine in recurrent depression: case-control study. Br J Psychiatry 2009;194:350-354.
  6. 6)McIntyre RS, et al. : The prevalence and impact of migraine headache in bipolar disorder: results from the Canadian Community Health Survey. Headache 2006;46:973-982.
  7. 7)Kalaydjian A, & Merikangas K : Physical and mental comorbidity of headache in a nationally representative sample of US adults. Psychosom Med 2008;70:773-780.
  8. 8)Yamada K, et al. : High prevalence of comorbidity of migraine in outpatients with panic disorder and effectiveness of psychopharmacotherapy for both disorders: a retrospective open label study. Psychiatry Res 2011;185:145-148.
  9. 9)Yamada K : High prevalence of menstrual migraine comorbidity in patients with premenstrual dysphoric disorder: Retrospective survey. Cephalalgia 2016;36:294-295.
  10. 10)山田和男:月経前不快気分障害(PMDD)〜エビデンスとエクスペリエンス,星和書店,2017.